OPINION9村林004

【論評・提言 004】

・長い時間をかけて、ようやくカジノ法案が成立しました。これからはどこにどんなカジノをつ創るか、創らないのかが問われています。
・一方で観光立国を目指している日本はすでにオーバーツーリズム問題も発生しています。今後、人口減少時代において、これまで以上に観光業は重要になると思われますがカジノも念頭に置きながらインバウンドを地方創生に活かすことが重要です。

<カジノとインバウンド>

リーサ・レポート(2018年6月号)ではカジノについて、リーサ・オピニオン(2019年10月号予定)ではインバウンドについてですが、横浜市が正式に誘致表明をし、今後とも不動産投資関連での重要なテーマでもあるため、これらも含めて論点と方向について、まずは現状を踏まえて下記にまとめてみました。
カジノの導入についてはいくつかの自治体での検討のお手伝いをした実績もありますが、自治体としては、どうしても依存症の懸念、マネーロンダリング対策等のネガティブな面の実態把握と解消策に終始してしまうことが多いものです。海外の事業者からの提案も持ち込まれますが、当然、事業者としての立場からのアピールとなります。長年、多くの自治体、国で調査をしますが、パチンコ業界との関連もあり、カジノ導入の目的と効果等がきちんと理解されていない面があります。

■日本のカジノが注目される背景は何でしょうか。
カジノについては長年議論されてきましたが2016年12月にようやく法制化されました。我が国にとってカジノはどうしても必要な機能とは思えませんが、カジノは世界の大半の国で許容されており、あってはいけないものでもないためカジノ法があること自体はある意味、自然かと思います。
IRについてもかなり以前から話題になってきましたし、単発の施設の集合体ではエリア全体での魅力づくりができないため当然の取り組みだと思われます。カジノはその中の一部にすぎませんが、カジノを軸としたIRとそうではないIRとはかなり構成も運営も異なると思われます。
カジノ法は海外のカジノ運営者からも強い期待がありましたし、成立後、多くの事業者が提案をしています。実は東京都において石原知事がカジノ構想を提唱した際には多くのカジノ事業者から具体的な提案がもちこまれていました。
カジノの運営は独自のノウハウが必要であるため、事業運営が可能ま事業者は6社程度しかありません
世界中でカジノが展開している中で海外の事業者が我が国のカジノに関心を持つ背景は下記のとおりです。

◆世界的にはカジノは頭打ち産業である
世界のカジノの規模(粗利益ベース)は約18兆円、上位3都市で約5.4兆円です。日本のパチンコ業の総売り上げは約20兆円ですが、粗利益ベースで約4兆円です(その他、景品交換手数料などがあります)。世界の25~30%を占めています。さらに、公営ギャンブルの売り上げは約6兆円ありますので、右肩下がりとは言え両方で実質的なギャンブル大国でもあります。
海外ではすでにカジノは普及しており新たな参入機会を模索している中でカジノが禁止され、未整備の日本に着目し、カジノ開放を要求してきました。日本では公営ギャンブルが普及し、パチンコも含めると膨大なギャンブル的支出がされてきましたのでその一部を取り込みたいとの意図がありました。

◆日本のカジノは大都市も対象である
大規模なカジノは他の国では首都などの大都市には立地していません。代表的なラスベガスも砂漠を一から開発しました。NYやワシントンにはありません。パリやロンドン、フランクフルトにもありません。
開発面ではインフラが整備されていて、大きな商圏を抱える大都市圏が効率的ですが、カジノは本来的に大都市向けの機能ではないため、これまでは世界的には大都市にはありませんでした。
ところが我が国では首都である東京をはじめとして大阪、横浜等の巨大都市が候補に挙がっています。もちろん、沖縄、苫小牧、若山なども立候補していますが、海外のカジノ事業運営者は当然、大都市に関心があります。ディスに―ランドやUSJなどの大成功を見れば分かります。

◆地方へのインバウンド対応も狙っている
カジノへの投資は1兆円レベルと言われています。海外事業者は日本のインバウンド需要、観光業にも関心があると思われます。カジノだけを目的にするのではなく、併せて、全国での観光目的を有する顧客を期待していると思います。観光立国を標榜してインフラ整備や各種支援方策を講じつつある地方の観光需要は高いため、これらの獲得も念頭に置いています。大規模資本と海外での運営実績を活用して、散在している各地の資源の観光資産化を図ることが可能と考えていると思われます。海外ファンドが温泉等を買収していますが、この一環かもしれません。
このことは我が国にとっても良い面はありますが、先に良いとこ取りされることも懸念されます。

■横浜市のカジノ誘致への表明をどうみるか
横浜市のIR(カジノを含む)については昨年の神奈川新聞にも識者の意見が掲載されています。私も長く横浜市の調査等に係ってきたので意見を掲載させていただきました(2018年10月10日)が、この後の状況変化を加味して下記にまとめてみました。

◆市長の表明と地元の反応
横浜の臨海部の再生はバブル時代から全国的な「ウォターフロント開発」の一環として、東京臨海部とともに大きな話題となってきました。MM21から始まりましたが、当初の業務核都市形成のために原則、業務を核とししたが最終的には住宅も導入しました。しばらく停滞していましたが、その後、徐々に日産の本社等の多様な機能の導入によりMM21の土地利用は進みましたが、東京圏最大の再開発地区であった「山下ふ頭」は臨海部全体の様々な構想がありながら、なかなか進展しませんでした。
要因としては景気の問題、横浜港の運営問題、臨港道路計画、そして、倉庫事業者等の地権者の同意取得等がありました。港湾機能を山下ふ頭から本牧・南本牧・大黒ふ頭等に移すことが決まって以来は再開発の話が本格化してきました。港湾局は所管部局として地権者と交渉しつつ、海外の類義開発等も参考に構想・計画を練ってきましたが、カジノ法案が制定された2016年前後にはカジノの導入も視野に入ってきました。
当初は市としてはあまり乗り気ではなかったようですが、与党・菅氏の強い要望もあり、一旦白紙にして、今回改めて誘致表明をした次第です。商工会議所等の経済界は諸手を挙げて賛成であり、市の提案募集前に複数の地区を念頭においた提案をしていました。
経済効果もいろいろと出されていますが、最初の建設効果が大きいものがあり、その後の運営時は外国の運営者が大半を得てしまうでしょう。雇用効果も大きいと言われていますが、現状でも人で不足であり、ホテル業界もマネージャークラスはもとより、清掃人員等も手薄であり、この傾向はさらに強まるでしょうから、大きなメリットでは無いように思えます。
市長の発表後に多くの反応がありました。
経済界が賛意を示した一方で、横浜港湾協会に加盟している地権者達(港湾業者等)はこの30年以上に亘り、再開発について議論してきました。すでに港湾機能は本牧・南本牧・大黒ふ頭に移っており、再開発は必然でしたが、これまで横浜港を支えてきた地権者達としては簡単には渡せないとの状態が続いていました。また、MM21の整備の際にはかなり手厚い補償等がされており、今回も同様のことを要望している面もあります。
一部の市民達はギャンブル依存症等を理由に反対していますし、パチンコ業界を背景にした議員等も既得権の侵害等の面方から反対しています。
また、この発表後にラスベガス・サンズが大阪進出から横浜へと転換してきました。集客ポテンシャルは横浜の方が高いと見たのでしょう。
行政は以前からウォターフロントの整備には力を入れてきており、MM21を始めとする臨海部一帯を念頭に検討してきました。その中には会議場やホテル等はありますが、カジノはありませんでした。東京都が一時前向きになった際や羽田連絡道路整備の際にもカジノは大きな話題にはなりませんでした。もちろん、神奈川県等ではカジノに関する調査は実施しており、横浜市等も候補の一つではありましたが、具体的な動きはしませんでした。
大規模開発はどこも政治的になりますが、こちらもそうなっていますので、真の意味合いがなかなか議論されにくくなってしまいました。また、カジノを入れる必要は全くないのですが、一方でカジノを拒絶する絶対的な理由もないことがさらにややこしくしていると考えられます。

◆横浜市のウォターフロント開発の在り方
いよいよ山下ふ頭の再開発が見えてきたので、長年の懸案であるウォターフロント再生事業の締めくくりが可能となったわけです。
これまでも長い間検討が続けられてきましたが、ここで少し立ち止まって俯瞰する必要があります。関内、元町等の既成市街地を含めて、現状を踏まえて、改めて、新たな全体構想が必要です。
関内地区は山下ふ頭とともに「特定都市再生緊急整備地域」に指定されていて、懸案だった市庁舎の移転も決まり、現在は現市庁舎活用の事業者選定中(9月頃に決定予定)であり、隣接地区とともに再開発が進められています。球場はリノベにより一定の拡充がなされましたが、この新たな形態をもとに中華街、新山下ふ頭、関内エリア、山下公園そして既成市街地等とのネットワークを再検討することが重要だと思います。
関内地区はかつての勢いはないものの、全体として良い雰囲気を有しており、再生球場、市庁舎を含む周辺再開発そして山下ふ頭の再開発により、新たに魅力あるエリアに生まれ変わる可能性を秘めています。
山下ふ頭は再開発の基礎調査を継続する中で数年前に海外の先端的な開発も参考にしつつ、オリンピックを念頭にスポーツタウン構想を策定したことがあります。この時点では横浜球場の移転の話もありましたので、このドーム化を含めて中核施設としていました。結果的にはまだ熟度が低く、球場も存置されることになったので白紙になりましたが、今でも、テーマをスポーツとすることは十分あり得ると思います。スポーツにこだわる理由はカジノと違って市民からの反対はまずありません。また、我が国のスポーツはますます国際的に強くなっており、注目を集められるようになっていますので、多くの関連企業のスポンサーも含めて多様なスポーツ関連機能の複合化(多様な国際競技場、高度な練習・育成・教育機能、スポーツ医学、関連商品商業施設、会議・展示施設等)による賑わいと経済効果が期待されます。さらに、駅近接である必要もありませんので、やや、最寄り駅からは遠い山下ふ頭への導入機能として最適です。
国際展示場や国際会議場はMM21にて拡充しましたが、まだ、現状では足りないものの、展示場のあり方は徐々に変化していますので、これから巨大な展示場を整備するのはリスクが大きいと思われます。
臨港道路計画はまだ生きているようですし、山下公園でのLRT整備や山下ふ頭入り口部分の交差点などの改良、ロープウエイの延伸・拡充、大型客船バース等との関係・連携を含めて、今後数十年先を見越した新たな港湾都市のイメージを確立させることが重要です。国内では神戸と並んで港湾都市として特徴がありますが、世界的にはそれほどの特徴として見られていませんので、新たに、「これが横浜だ」というコンセプトを打ち出すことが重要です。そのためには東京港も含めた計画が必要だと思います。
横浜港で忘れてはいけないエリアがあります。それは瑞穂ふ頭(ノースピア)です。一部は風力発電等に使われていますが、山下ふ頭を超える大規模な開発予備軍です。市の構想では将来的にはシーバスの基地等に位置付けられていますが、完全返還にはまだまだ時間がかかりそうです。いずれ返還されれば大きな役割を果たしますので、そろそろ、返還を睨んでここも含めた構想を立てることが重要だと思います。

■インバウンドの方向とカジノ
我が国は観光立国として「明日の日本を支える観光ビジョン」が策定され、2030年に6000万人を目標等とし、これらに関連する多様な施策が講じられつつあります。
海外のカジノ事業者は世界的にも数社しかありませんが、その運営力は大きなものがあります。我が国のデベロッパーは大規模な開発を多く実施していますが、国際的なエンターテインメント機能については物足りないものがあります。映画や各種興行業種も欧米にはかないません。
従って、カジノを軸にしたIRを展開することが必要となった場合は海外の事業者に依存せざるを得ないのが現状です。もちろん、彼らをうまく活用できればそれでも良いですがそうはいかないと思われます。
さらに彼らは大都市でのカジノIRを実現すると併せて、国内のインバウンド需要への対応も考えていると思われます。
海外観光客が2030年に6000万人になるのは疑問ですが、我が国のインバウンド関連業はまだまだ、伸びしろがあります。すでにオーバーツーリズムの弊害が出ている中で、あまりに拙速な対応はしない方が良いとは思いますが、海外事業者はやれることだけに集中して迅速に事業化します。ニセコ一帯のように、気が付いたら地元民はもちろん日本人が寄り付けないエリアになってしまうかもしれません。
先述したように世界的にはカジノ導入は地方活性化に有効ですので、沖縄や北海道等は前向きに導入しても良いかもしれませんが、大都市で効率的に稼ぐ地盤を作れれば地方への関心は薄れると考えざるを得ません。
カジノではない観光事業をどのようにするかは事業体次第ですが、眠っている観光資源は多くありますのでとんでもない発掘があるかもしれません。
特にこれからインバウンドの主たる対象である欧米観光客のニーズは彼らの方が把握しているはずですので先手を打ってこれらを自分たちの領域に取り込もうとするでしょう。
また、かつては無駄だと言われた飛行場は各県にあり、切り捨てられた地方鉄道はまだ多く残っています。これらを最大活用して顧客を目的地に効率よく運ぶことは十分可能です。もちろん、国内の事業者も考えているかもしれませんが、投入できる投資額の桁が違えば負けてしまいます。果たして、どこまで投資をするかは分かりませんが地方の観光資源のポテンシャルを考えるとカジノへの投資を上回ることも十分想定されます。その際の日本側の相当規模の支援についてはトータルで地域の創生そして国内企業への還元が十分なのかを見極める必要がありますが、その前に先手先手で動かれてしまいそうです。
したたかにこれらの大きな動きを活用すべく対応できるかがインバウンド対応のポイントの一つになりそうです。
いすれにしても長期的な話ですし、数企業ですべてをカバーできるものでもないので慌てることは無いですが、以上のような動きが早々に起こることを念頭において、それぞれの地域が特徴を活かしたインバウンド対策を講ずることが必要です。

以上