OPINION9本田002

<リテ-ル業務における地域金融機関戦略の実態>
~住宅ローン推進の光と影~

金融機関経営における喫緊の検討テーマとは「健全性の確保」「収益性の向上」
「経営基盤の強化」に他ならないが、より具体性のある戦略・施策を自助努力により
如何にして確立することが出来るかが最大のポイントとなる。
しかし、昨今の金融機関は、マイナス金利が続く環境下では収益力強化を至上命題とし、
企業向け融資に対しては慎重な姿勢を示す一方でリテ-ルビジネスにおける収益力の
向上を目指すべく個人向け消費者ローン(住宅ローン)ビジネスに積極的に取り組んできたが、
近年、このビジネスモデルにも変化が現れており、取組実態も含め検証する。

■地域銀行64行の住宅ローンへの取組状況

ここ数年、企業向貸出が伸び悩む中、安定的リテール運用基盤を確立すべく個人向け消費者ローン、とりわけ住宅ローンへの積極的な取り組み姿勢が顕著であった。住宅ローン推進の理由として考えられる要素として、自己資本比率算出の際のリスクアセット比率が新BIS規制では35%に引き下げられている点(=適格住宅ローンの場合)を勘案すると、長期間の元利均等返済スキームによる長期安定的な収益源として期待できるだけではなく、一般事業性融資を拡大するよりは健全性を示す指標である自己資本比率改善に貢献することも大きな要因と考えられる。
地方銀行64行について、決算公表データを基準に貸出金残高、消費者ローン残高、住宅ローン残高の推移を対10年前比で比較してみると【図-1】となる。貸出金、消費者ローン、住宅ローン残高全て増加傾向にはあるが、2009年以降2016年までは、一般事業先向け融資残高の減少分を消費者ローン、特に住宅ローンの残高増加分で補っていることが明確に現れている。しかし、昨年から状況が変化、住宅ローン残高の伸び率は急激に縮小している、一方で、公的機関やREIT等を含む不動産向け融資が増加する傾向にあることから、住宅ローン残高の伸び率は低下した。
収益性に関しても、総じて、減少傾向にあり、総資金利ザヤは0.23%まで低下、貸出金利回りは有価証券運用利回りと同程度まで低下しており、金利競争により経営環境は疲弊していることが明らかになっている。【図-2】
マイナス金利政策の影響もあり、住宅ローンそのものの金利も低下が続いており、収益性という観点からも商品的な魅力は低下しているのではないだろうか。事実、メガバンクは地方における住宅ローンそのものの取り扱いは実質行っていない。

■住宅ローン推進の盲点と今後の課題

2005年以降、住宅金融公庫の新規融資が実質廃止されたことから、民間金融機関の住宅融資への取り組は積極的に展開されていた。経済環境の低迷と少子高齢化の進展により新規住宅着工戸数は逓減傾向にあることから、継続的に年間数兆円以上の住宅ローン新規獲得が可能か否かは疑問ではあったが、長期安定・高収益の住宅ローンという位置付けから運用資産ポートフォリオの改善を図るべく積極的な営業活動が行われ、都銀、地銀、第二地銀、信用金庫、系統金融機関、更には他業態からの参入により獲得競争が激化していた状況を前提に考える。
現在、各金融機関が提供している住宅ローンを比較すると、変動金利か固定金利か、適用金利の高低、取扱い手数料の有無、更には繰り上げ返済の自由度と手数料有無の違いにより分類できるが、超低金利の環境下、1%以下の変動金利や1%前後の一定期間固定金利を適用する金融機関が多数あり、今後長期金利が上昇した際の金利上昇リスクを如何に回避するかが問題となるはずである。
住宅ローンの金利指標となる10年物国債の金利に関して、1990年以降の新発債金利は、90年か00年までの10年間の平均金利は3.57%で、90年9月の8.69%を上限に一時0.6%台まで低下、その後1.5%程度まで上昇した。直近10年間の金利は低下局面にあり、マイナス金利の状態までになっている。【図-3】
固定金利型住宅ローンに関してはデリバティブに代表される金利リスク回避手段を講じているという金融機関は多いが、現時点では収益性が高いローンとはいえず、低採算資産に変化している可能性が極めて高い。地方銀行の直近の平均資金調達コスト0.01%と経費率0.8%を勘案としても、1%の固定金利住宅ローンの資金利鞘は0.2%以下と想定される。経費率の更なる引き下げは厳しく、調達コストが上昇すれば採算割れとなるのは確実であろう。
更に、住宅ローン残高を伸ばす為、住宅そのものの価値以上の融資を実行しているケースも多数見受けられる。新BIS規制ではリスクアセットは軽減されるが、個々の融資に対するパフォーマンスを精緻化しなければならない。つまり、適切なLTV(ローンツーバリュー=物件時価額に対する融資実効額の割合)は70~80%相当額が目途であるといわれるが、それ以上の融資を実行しているローン債権=LTVが100%を超える場合は全額アセットとして計上する必要がある。事業性融資と異なり、個人を対象とした住宅ファイナンスに関しては最終的には物件価値を前提に処分回収することが必要であり、安全且つ優良な資産として管理する為には、個々の債権内容を正確に把握する仕組みが必要となるはずである。保証会社を利用しているローン債権に関しては、保証機関の信用力によるが、自行で関係会社を保有しているモデルのケースは、当該リスクは連結で内包することにもなる。
融資対象物件時価額と融資残高の関係を簡単にまとめてみた。

80%のLTVを基準として期間20年のローンを実行した場合、土地価格が年率2%で下落していると仮定し建物の減価償却額を加味し中古市場で時価額の75%にて売却したとしてもロスの出る確立は極めて低いが、LTVを90%にすると確実にロスが発生する。物件にもよるが中古市場マーケットでの二次利用を勘案すれば時価額の70~80%を前提とした住宅ローン設定が妥当であり、従来から言われている「頭金20%相当」という商品性は金融機関にとっても顧客にとっても無理の無い内容だったものと判断できる。(マンションに関しては、更に、評価の下落率は高くなる)
借り換を主体とした住宅ローン残高の積み上げでは、借り換え時点の物件評価額はローン残高を越えているケースも多数存在することが想定され、今後、ロスが出る確立は極めて高くなっているはずである。
関連会社の保証会社保証を活用する住宅ローンの場合、保証料により当該ロスの発生は完全に補完されていると言われているが、保証料と代弁額および物件処分による回収額の関係をシュミレーションすると【図-4】となる。人件費等の経費を考慮せず単純に延滞発生率=代弁額と物件処分による回収額による損益の関係から勘案すると保証料収入によりカバーされるのは新規実行の2~2.5%までとなる。
住宅ローン残高を積極的に伸ばすべく、融資事務フローを簡略化するために自動審査モデルや完全電子化による契約手続きを構築、集中窓口を設定する金融機関は多数見受けられるが、居住用住宅ローンであれば、年に一度の時価額の算定と借主の定性要件の再判定ができるか否かがポイントとなる。自動審査モデルによる入り口段階での効率化とリスク軽減措置だけに頼るのではなく、実行後の途上与信判定=返済を確実にできるか否かの判断を如何にして正確に把握し、デフォルト(延滞発生)の事前防止を実現できる仕組みを構築しているか否かが重要となる。
住宅ローポートフォリオの分析手法は以下の流れになる。

また、住宅ローンの約3割を占める賃貸物件ローンの場合は、収益還元法による物件価値の継続的判定ができているか否か考える必要もある。特に、賃貸物件ローンの場合は家賃収入を返済財源としているため、賃借人の状況を正確に把握できているか否かがポイントになるはずである。
ただ、現在の自己査定スキームでは、正常に返済している個人向けローンに関しては正常先に分類され、資産査定も厳格に行なう必要も無いとされていることから、現時点で当該仕組みを構築している金融機関はないのが実態ではないか。つまり、事業性融資に対する資産査定の厳格化は議論されているが、貸出金の20~30%を占める資産に成長した住宅ローン債権の管理のあり方と営業推進のあり方についても再検証する必要があるはずである。

■まとめ

金融機関の経営戦略を考えた場合、最適な資産ボリュームの維持を実現するとともに最適なリスク回避手段を講じることが重要であり、同時に安定的な調達基盤と安全な運用基盤を構築するとともに、収益性を高める営業戦略の構築が必要である事に異を唱える人はいないはずである。
安全で収益性の高い資産構造へ変革するためには、個人関連融資の維持拡大が最大のポイントとなるが、今後は、従来のような金利ダンピングによるローン残高を引上げるだけの戦略から個々の債権の内容を吟味した戦略の構築が必要である。また、収益を極大化すると同時にロスを極小化するためには、適正な金利と新たな収益源を確保できる商品を開発し、更には元金回収ロスを正確に判定できる仕組み作りが必要であろう。
顧客指向の営業展開を考えるならば、適正な時価額判定によるローン商品とともに保険関連商品(疾病保険以外にも、所得保証保険や家財保険、家族保証保険等)をクロスセルすることで顧客情報を継続的に収集し、途上与信の判断ができる仕組みを構築することである。当該保険を取り扱うことで新たな手数料収入を実現する仕組みでもある。更に、適正な時価額判定をすることで利用者側の負担を軽減すると同時にリスクを回避する手法としては、適正なLTVを超える部分に対する保証を付加する事が考えられる。国内では一般的ではないが、諸外国では当該部分に保険を付保する住宅ローン商品の仕組みもあり、今後は「収益・リスク・コスト」の三要素を最適な状態に保つ新たな商品開発を実現する事が求められているのではないだろうか。

図-1

図-2

図-3

図-4

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