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【提言】

 <シンガポールの政治経済と不動産制度>

一人あたりGDPにおいて日本を大きく追い抜いたシンガポールの政治経済と
不動産価格の安定化についての外国人規制についてを考察

 

実質一党(一族)独裁体制のシンガポール

シンガポールでは、リー・クアンユー前首相の長男であるリー・シェンロン氏が、2004年から首相を務めている。2015年の総選挙では、与党の人民行動党が全89議席中83議席を獲得して圧勝した。人民行動党は1965年の建国から一度も途切れること無く、単独で政権を擁立している。シンガポールでは投票は国民の義務とされており、棄権者には罰則が設けられていることが特徴。2015年の総選挙での投票率は、9割を超えている。強い政治力を保持していることから、政府の意思決定から施行までのプロセスが非常に早く、不動産における法制・税制においても同様である。

 

小国ゆえの強い経済と指標

一人当たりGDPでは、世界ランキングで上位10位以内にランクインするシンガポール(日本は23位)。東京23区とほぼ変わらない面積ながら、インフラや税制等の整備を行うことで、世界でも有数のビジネス先進国となった。成長率では、ASEAN諸国と比べ緩やかではありつつも、いまだに堅調な成長を維持している。

【一人当たりGDPランキング(2015)】

順位 国名
1 ルクセンブルク
2 スイス
3 ノルウェー
4 カタール
5 アイルランド
6 オーストラリア
7 米国
8 デンマーク
9 シンガポール
23 日本

(World Bankより作成)

【一人当たりGDPとGDP成長率の推移】

 

(出所:IMFより作成)

 【GDP成長率推移の比較(単位:%)】

 

近年のシンガポールは、2~3%前後の成長率を安定的に維持している。2017年以降のIMFによる予想値でも、2022年までGDPの年間成長率は2%強を継続。一人当たりGDPはすでに世界有数の高い水準ではありながらも、毎年右肩上がりで成長すると予想される。

【失業率の推移比較(単位:%)】

 

 

2017年以降の数値はIMFによる予想値で、いずれの国も2017年予想値と大きくは変わらない前提となっている。シンガポールの失業率は2%前後と、ASEAN諸国の平均と比べて低水準で推移しており、今後も同様の水準が継続すると予想される。

シンガポールの人口動向)

シンガポールの人口は561万人(2016年)。ASEAN諸国の中ではブルネイに次いで2番目に人口が少なく、2015年時点の世界の人口ランキングでは113番目の国である。平均年齢は40歳(日本は46歳)、14歳以下の比率は16%(日本は12%)、65歳以上の比率は12%(日本は27%)となっており、若い人口の比較的多いASEAN諸国の中では高齢化が進みつつある国のひとつである。

順位 国名 人口
110 キルギス 6.0
111 レバノン 5.9
112 デンマーク 5.7
113 シンガポール 5.5
114 フィンランド 5.5
115 スロバキア 5.4
116 トルクメニスタン 5.4
117 エリトリア 5.2
118 ノルウェー 5.2
119 中央アフリカ共和国 4.9
120 コスタリカ 4.8

(出所:World Bankより作成)

【シンガポールの年齢別人口推移(単位:千人)】

 

 

(出所:United Nationsより作成)

シンガポールの人口は緩やかな増加が見込まれており、2025年ごろに600万人を超えることが予想されている。その時期から15歳~64歳の人口は減少し始めると予想されています。労働力の中核となる生産年齢人口の減少だけでなく、65歳以上の人口増も予想されています。人口増加が与える経済成長の分析を行い、政府は人口増加目標をコミット。それに伴うインフラ構築(MRTの新路線)を実施している。

 【シンガポールの年齢別人口比率推移】

 

(出所:United Nationsより作成)

2050年にかけて14歳以下および15歳~64歳の人口比率が減少する一方で、65歳以上の人口比率は増加することが予想される。2040年には65歳以上の比率が30%になるペースと、シンガポールでは急速に高齢化が進むと懸念される。

【日本の年齢別人口推移(単位:百万人)】

 

 

(出所:総務省統計局より作成)

日本の人口は、総数が減少していくとともに、65歳以上の人口比率の増加が予想される。2015年時点で65歳以上の人口の比率は27%、30年後の2045年には+10%強の38%になると予想。2015年に12%だった65歳以上の人口比率が、2045年には+20%の32%と急増するシンガポールよりも、日本の高齢化の進行は上回る予想である。

 シンガポールの不動産法制

東京23区と同程度の面積であるシンガポールにおいて、土地は貴重な資産である。そのため、外国人による不動産の所有に関して、一定の制限が設けられている。1973年に施行された「居住用不動産法」に基づき以下が規制されている。
・原則として、外国人は土地、土地付き住宅(一部の地域を除く)、HDB(Housing Development Board)等を所有不可
・非居住者の外国人でも、コンドミニアムの購入は可能だが、一棟丸ごとの購入不可

シンガポールでは、国民の大半が「HDB(Housing Development Board)」と呼ばれる公営住宅に住んでいる。HDBは、シンガポール国民の生活の安定を目的としている住宅なので、原則として外国人がHDBを購入することはできない。外国人でも永住権保持者の場合、中古のHDB限定で購入が認められている。

シンガポールの国土の大半は国有地であるため、コンドミニアムの所有権も、 ほとんどが99年や999年といった長期間のリースホールド(定期借地権)となっている。ただし、外国人でもフリーホールド(永久所有権)の物件を購入することは可能である。

 不動産の種類と特徴

コンドミニアム:外国人の所有が認められているいわゆる「高級マンション」。プールや野外バーベキュー、24時間セキュリティなど、設備が充実。ローカルの居住者もいますが、居住者の多くは外国人駐在員である。

戸建:原則として、外国人は土地付きの一戸建てを購入することができない。テラスハウス、バンガロー、セミデタッチハウスなど、規模や広さ、付属する施設によって複数の種類がある。

HDB:外国人の購入が認められていない公営住宅。シンガポール国民のほとんどが住んでいる。

外国人の購入手続きの流れ

<新築物件>

物件が決まったら、仮契約を行う。この時点で、手付け金の支払いが必要となるが、新築物件の場合は、購入価格の約5%を支払う。本契約までの2週間の間に、銀行の融資手続きや弁護士を探索。なお、この時点で売買を取りやめた場合、頭金約5%のうち一部は返金されない。本契約では、売買契約書にサインをして購入価格の約15%を支払うことが慣習。この後は、契約を解除することができません。新築物件の場合は、建設の進行段階に応じて支払い(プログレッシブペイメント)を行い、物件の引き渡しと登記で完了。なお、金銭の受け渡しや書類の確認などは、すべて弁護士によって行われる。

<中古物件>

中古物件の場合は、仮契約の時点で手付け金として購入価格の約1%を支払う。有効期限は2週間、その間に銀行の融資手続きや弁護士を探索。なお、この時点で売買を取りやめた場合、頭金は返金されない。本契約では、売買契約書にサインをして購入価格の約4~9%を支払うことが慣習。この後は、契約を解除することができない。中古物件の場合、本契約締結から約2カ月の期間内に残金を支払い、物件の引き渡しと登記を行うことで完了。

なお、新築・中古ともに売買契約時に、約18%の印紙税を支払う。

外国人への高い課税

かつてシンガポールは、不動産投資に有利な国だと言われてきた。理由としては、外国人の不動産購入に対する規制が少なかったからである。土地付き一戸建てやHDB、コンドミニアムの一棟購入などに規制があるが、それ以外で外国人が不利になるような規制は少なくしかも、相続税やキャピタルゲイン税は非課税という不動産に限らずタックスヘイブンであった。

しかし、近年になって加算印紙税の税率が変更され、外国人の不動産取得には15%の税率が課せられるようになった。この政策をクーリングメジャー(不動産高騰抑制策)と呼ばれている。物件を購入した際には、通常の不動産取得者印紙税の約3%に加え、買い手が外国人の場合は加算印紙税15%が課される。例えば、1億円の物件を購入した場合、印紙税だけで購入価格の18%にあたる1,800万円を支払うことになる。

さらに、4年以内の住宅短期転売についても、最大16%という高い印紙税率が課される。短期売買であれば、購入時の印紙税18%分と合わせて、購入価格の34%も支払うことになり高騰する不動産価格を政府が押さえつけている状況である。本クーリングメジャーは2018年に発表され翌日施行された。