OPINION9水谷003

【提言】
<都道府県地価調査が示唆しているもの>

・不動産を評価する基準は、「値上がり益期待」から「如何に収益を生むか」へと大きく変化している。

■全国地価は、商業地、住宅地ともに上昇基調を強めている

9月中旬、国土交通省より「令和元年の都道府県地価調査」が発表されました。同調査は、各都道府県知事が毎年7月1日における基準値1㎡当たりの価格を調査し公表するものであり、3月に発表される公示地価調査と並んで不動産市況をみるうえでの指標になるものといわれています。今回の結果を整理すると、①全用途平均は2年連続で上昇したこと、②三大都市圏では住宅地、商業地ともに上昇基調を強めていること、③地方圏では下落幅の縮小傾向が続いていること、といった点が挙げられます。

今回は、こうした結果を基に都道府県地価調査が示唆しているものを考えたいと思います。不動産の購入については、バブル期は日本人が主役であり「値上がり益期待」が主たる購入理由でした。しかし、昨今では外国人が牽引している状況になりつつあり、彼らの視点は「如何に収益を生むか」といった観点で不動産を評価するわけです。日本人が見向きもしなかった地方の寂れた不動産であっても、収益を生み出せるとの判断によって外国人が取得し、収益物件へと生まれ変わっていくわけです。世界的には、さまざまな地政学的リスクが台頭しています。日本社会における意識の変化によって、不動産を評価する尺度も変わっていくのではないでしょうか。

■住宅地では、東京圏より地方四市の上昇率が高い状況が続いている

2019年の住宅地の不動産価格は、全国ベースでは依然として前年比マイナスとなっていますが、下落幅は縮小しています。恐らく2020年調査ではプラス転換する可能性が大きいのではないでしょうか。この背景としては、雇用・所得環境の改善が続くなか、低金利継続や住宅取得支援政策等による需要の下支え効果が効いているものと思われます。10月の消費増税の影響についても、かつてのような駆け込み需要による現象が見られていないことから、反動減といった状況には陥らないとの見方が大勢を占めているようです。

こうしたなかで、地方四市(札幌、仙台、広島、福岡)の上昇率が強まっています。地方四市の上昇率は東京圏を上回る状況が続いています。都道府県別では、沖縄県の地価上昇率が最も高くなっています。沖縄の場合、人口増加率が全国で最も高い地域となっていますが、さらに、インバウンド需要、本土からのセカンドハウス需要を目論んで住宅需要が高まっているようです。但し、どの程度、実需に基づいているかについては注視する必要があると考えられます。(図表1参照)

■商業地では、インバウンド需要の拡大が地価を牽引している

商業地の地価の動きも住宅地とほぼ同様となっていますが、住宅地より1~2年先行している印象があります。恐らくこれは、インバウンド需要、企業による設備投資といった法人需要が牽引しているためではないかと推察されます。特に、元気がいいのが、大阪圏と地方四市であり、これらの地域ではホテル建設が活発化している模様です。従来、首都圏中心であった高級ブランドホテルは、今や地方への展開に活路を見出そうとしています。今後のインバウンド需要、国内旅行需要を考えると、ある程度の需要は見込まれるものと思われますが、需給関係には注意しなければなりません。

ホテル業界における経営課題は、高級ブランドホテルのオペレーションに対応できる人材の圧倒的不足です。知人に有名ホテルのマネージャーがおりますが、ホテル業界では人手不足が深刻な問題となっているようです。新しいホテルが出来ると人材の引き抜き合戦が起きるようです。ある一定レベルのホテルマンは世界的にも不足しているので、今までのようなペースで国内ホテルの開業が進むと、「近い将来、現場が回らなくなってしまうのではないか」と危機感を募らせているようです。(図表2参照)

■都道府県別にみると、人口増加率、地価変動率に格差が生じている

ところで、わが国は2011年以降人口減少社会に突入致しました。地価もバブル崩壊後、20年以上に渡って下がり続けてきました。人口減少と同時に少子・老齢化社会が訪れており、「消滅可能性都市」といったキーワードがメディアを賑わしています。人口減少や少子・高齢化社会の進展は、生産人口の減少を通じて地域経済を弱体化させ、十分な住民サービスを受けられなくなる可能性が高まることを意味します。当然のことながら、地価も下落傾向をたどり、地域経済・社会は負のスパイナルに陥ってしまうというわけです。

こうしたなかで都道府県別に人口増加率、地価指数をみると、人口増加率が高い地域は地価が上昇するといった傾向が見られます。昨今では、沖縄で人口増加とインバウンド需要拡大が地価上昇に繋がっているようです。もともと沖縄は地元志向が強く、温暖な気候のもとで、地価も物価も比較的安定していたことが特徴でした。しかし、インバウンド需要や本土からの不動産開発投資により一気に不動産投資資金が雪崩れ込んできたというのが実態のようです。宮古島出身の方とお話をしたところ「沖縄・八重山地域の住民は、余り不動産開発には興味がないので、空港や港を拡張して、ドンドン観光客が来島する状況には困惑している。結局のところ、美味しいところは、本土の企業が持って行ってしまう」といわれておりました。
(図表3参照)

■今後の不動産市況をみるうえで、外国人動向に注意しなければならない

不動産市況については様々な見方がありますが、2020年以降も引き続き堅調に推移するとみています。仮に、マクロ経済減速等の影響を受けても、過去の価格動向や収益還元法等の観点から、バブル崩壊時のように不動産価格が大きく下落する可能性は小さいと考えられます。それでも、用途や物件によっては価格調整があると思います。最も価格調整に陥りやすいのは、価格上昇ピッチが大きかったタワーマンションではないでしょうか。次いで、稼働率の低いオフィス、商業施設、工場といったところになるのでしょう。

一方、2020年以降の注目点として、外国人及び富裕層の動きに注目したいと思います。なかでも中国人は、米中貿易摩擦の影響を受けて米国での不動産取得が徐々に難しくなっているうえ、香港でのデモ活動に見られるように中国国内での政治リスクに敏感になってきているようです。このため、海外資産を保有するという点で日本市場に対する関心が高まっているようです。中国人以外の外国人にとっても「グレートチャイナから外れた日本市場」が魅力的に映るようです。このため、2020年以降は海外資金・資本によって日本の不動産市場が支えられるという構図が考えられます。

確かに、日本の不動産価格はボトムを打って回復基調にありますが、国際的にみてまだまだ割安であるという状況は変わらないと思います。香港、シンガポール、上海で2億円以上するマンションと同程度のスペックであれば、日本では1億円以下で取得できます。しかも、日本の物件は長寿命、地震などの災害に強い、水回りなど設備面でのクオリティが高いといった特徴があります。

既に、中国をはじめとした海外在住の富裕層は、オリンピック後の物件取得に向けて動き出している事例も出ているようです。外国人による不動産取得に関しては賛否両論ありますが、歴史的にみて、潜在的な経済成長率が高まる要因として、海外資金流入による市場活性化効果が挙げられると思います。海外資金流入によって変化した現象としては、2012年以降の訪日外国人の増加によって、観光業の事業環境がポジティブな状態に転換したことが記憶に新しいものといえるでしょう。

 

<参考図表>

(図表1)令和元年都道府県地価調査・住宅地

 

(図表2)令和元年都道府県地価調査・商業地

(図表3)主要都道府県の人口増加率、地価指数