OPINION9村上004

【論評】

 前回のコラムでは、ドイツの都市計画で肝となっている「建設誘導計画(Fプラン、Bプラン)」について、その計画が基礎自治体で策定される枠組み(自然保護法との兼ね合い)を紹介しました。
 今回は、ドイツ・フライブルク市における最近開発された住宅地を例に取り、その開発のために策定されたBプラン(建設計画)について紹介し、どんな事柄まで都市計画で策定できる権限を持つのか、あるいはどこまでは策定しなくても良いのか、について、とりわけ持続可能性の観点で議論してゆきたいと思います。

<ドイツにおける都市計画(その3)>
前回のコラムでは、ドイツの都市計画で肝となっている「建設誘導計画(Fプラン、Bプラン)」について、その計画が基礎自治体で策定される枠組み(自然保護法との兼ね合い)を紹介しました。
今回は、ドイツ・フライブルク市における最近開発された住宅地を例に取り、その開発のために策定されたBプラン(建設計画)について紹介し、どんな事柄まで都市計画で策定できる権限を持つのか、あるいはどこまでは策定しなくても良いのか、について、とりわけ続可能性の観点で議論してゆきたいと思います。「持続可能性という視点でのドイツの都市計画制度」

■フライブルク市、グートロイトマッテン地区の開発(Bプランは前回のコラムに掲載)

フライブルク市の中央駅から裏手に向かった1.5㎞の好立地に、1910年代に成立したガーデンシティ(庭園都市)があります。産業革命を契機としてイギリスではじまったガーデンシティという思想は、ドイツでは都市に大量流入してきた労働者への住宅供給組合運動として広がり、緑ある環境における組合式の賃貸、集合住宅で形成されているケースが多いのが特徴です。その良好な立地条件とは異なり、ガーデンシティの向かい側にあたる鉄道路線沿線、および小川に挟まれているエリアは、①騒音の問題、②頻繁に発生する小川の越水問題から、住宅用途には適さないとされ、長らくクラインガルテン(NPO法人の管理による小区画の市民への賃貸式の菜園)として利用されてきました。多様な緑が存在する価値の高い自然環境です。

しかし、欧州金融危機からはじまった南欧州の不景気の波は、ギリシア、イタリア、スペイン、ポルトガルなどを筆頭とする生産年齢人口の北への移住をもたらし、ドイツでは毎年50~70万人のEU移民の流入増とつながり、とりわけ学園都市や工業都市などで、人口の爆発的な増加が観察されるようになりました(2019年現在は、ルーマニア、ブルガリアからの流入が主体に変化)。フライブルク市でも人口増加傾向が激しく、同時に若い世代の出生率の向上とも相まって、毎年1.0~1.5%(人口23万人規模のフライブルク市では2000~3000人の増加を意味する)の市民が増え続けています。当然、市内の不動産や賃貸価格は高騰化し、空き家率も0.5%程度と、知人の伝手などのコネクションがなければ、ほぼ必要な住居が見つけられない有様です。それゆえ、開発の必要性はひっ迫しており、上述したクラインガルテンは市の郊外部分に移設し、市街地に近いここグートロイトマッテン地区では、住宅地開発のための手続きが2010年ごろから活性化します(市内では、Fプランに記載されたあらゆる開発の可能性がある土地について、同時並行で急ピッチで開発が進められています)。

具体的には2010年にこのエリアにおけるBプランの仕様がまとまり(建設委員会で議論したものを議会で承認)、8.1haの敷地面積において、約半分の住宅用地に530戸、1,300人が居住する計画についてコンペが開催されました。コンペ優秀者の案をもとにして、2011年からBプラン策定手続きへと進んでいます。前回のコラムで記したように、市はまずは現状のクラインガルテンでの利用状況の自然会計と、策定予定のBプランで開発した後の自然会計について試算を行い、減少する自然会計(自然の価値)について、近隣の他所で回復するための土地探し、対策リストを作成し、2013年に議会の承認を受けています。回復対策では、郊外のいくつかの牧草地における自然多様性対策(30年間における農家との契約で、野草の種まき、その野草が繁栄するための時間的な猶予を得るための年間の刈り取り回数の削減、牧草地における果樹の植樹など)、そして郊外農地の農道部分における石積みの垣根設置(乾燥ビオトープ)などで、必要な自然会計上のポイントが回復されるとしています。ここでは、120万ユーロ(約1.5億円)の予算が必要になりました。

同時に2013年までにBプラン策定時には義務付けられている環境アセスメント(環境影響評価、環境報告書)を実施しました。ここではとりわけ、以下を主体にアセスが行われました:
①騒音についての検討(とりわけ住宅地を通貫する幹線道路と住宅地横を走るトラム軌道が騒音発生源)、
②小気候についての検討(日射、空気の流出入、気温・湿度変化などの住宅地に開発されることで起こりうる影響の評価)、
③雨水会計のコンセプトと洪水防止(住宅地区の地盤の底上げと雨水浸透設備の設置、屋上緑化の義務化など)、
④自然影響評価(前述の自然会計に加えて、ここではとりわけトカゲと蝙蝠などの希少種生物の保護、樹種調査を通じて緑を減らさないための保護対策、開発後に植樹する必要のある樹種と本数の指定など)

地権者との土地売買手続き(ここでは市が所有していなかった部分の土地、総額600万ユーロ、約7億円程度を一括して市が地権者から購入し、その後、分譲)にも時間がかかり、この土地を貸与していたクラインガルテン協会への補償手続き(移転用の土地確保、移転のための費用負担)も交渉によって約2億円程度を必要とすることになっています。

また、住民参加の過程では、近隣の住宅地ハスラッハ地区の住民団体との交渉で、①ハスラッハ中心街区における商業店舗の売り上げが減少することを避け、中心街区の更なる活性化のために開発区内には商業面積を入れ込まない、②小規模の幼稚園は2か所新設、小学校以上の教育施設は既存の近隣住宅地内のものを活用する、③小規模の公民館を1か所設置、などが確認され、これら②と③の公共施設は、所定の土地を建築コーポラティブに分譲後に、建築コーポラティブ側が建設を行い、市は家賃を支払うスタイルとし、30年間におよぶ家賃(700万ユーロ、約8.5億円)を開発会計に見込むことにしています。

これらの事柄に加え、造成・公共インフラの整備・小川の洪水対策の設計と費用(約400万ユーロ、約5億円)、Bプラン策定費用(建築事務所、土木コンサル設計料と都市計画部局の人件費、150万ユーロ、約2億円)などの支出項目が整理され、土地を分譲後、建設される予定の530戸に対する土地販売額の算定が行われています。

同時並行で進行されている議会に設置された建設委員会での協議と住民参加の過程を経て(コンペ案公表の2011年からはじまり、2013年2月の最終閲覧・意見公募まで複数回。現在の都市計画法では紙でのプラン公表だけではなく、市のHPにインターネット上にすべてのBプラン関係者類の公表を行うことが義務付けられている)、最終的には2013年9月にはBプランとその関連資料が出来上がり、市議会での過半数をもってBプラン(=条例)が決議、発効されています。
https://www.freiburg.de/pb/208548.html

■グートロイトマッテン地区Bプラン

それでは、Bプランで取り決められた中身を見てみましょう。

グートロイトマッテン地区のBプランでは、530戸分の建設のために分譲される宅地における建ぺい率は平均で35%程度、容積率で150%程度を標準としています(総4~6階建てを基本)。ただし、以下に記述する幹線道路、トラム軌道に面する騒音区分Ⅳ、Ⅴエリアにおいては、住宅地内に音の流入を防止するため、容積率が高めの建築が指定されています。

★騒音のアセスメントの結果から:
Bプランでは環境アセスメントが行われていますが、2012年に市が作成した騒音シミュレーションの結果から、住宅地が建設されることで変化する交通量の予測を行い、予定される建物を建設した後の住宅地における騒音についての検討がなされています(大規模開発や騒音の影響が著しいケースでは、Bプラン毎にコンピューター内に3Dで住宅地を再現して、想定される交通量からシミュレーションをかける場合もある)。それによって、住宅地内は屋外の騒音区分でⅠ~Ⅴ(50~75db)までの騒音影響エリアが出現すると予想されました。

図:フライブルク市が2012年に検討した騒音地図(道路からの騒音影響の地図を、
グートロイトマッテン住宅地が中心になるように明示)
出典:https://www.freiburg.de/pb/547808.html

 

騒音区分
Ⅰ 屋外:~55db、屋内想定~30db、茶色
Ⅱ 屋外:~60db、屋内想定~30db、オレンジ
Ⅲ 屋外:~65db、屋内想定~35db、赤
Ⅳ 屋外:~70db、屋内想定~40db、濃い赤
Ⅴ 屋外:~75db、屋内想定~45db、紫

それによって、Bプランでは、以下のような記述で義務化を指定しています:
1.騒音区分Ⅲに面する(騒音発生源の道路やトラム軌道に正対するファサード面)住居では、そのファサード面における居間と寝室の間取りは避け、少なくとも騒音レベルⅡに面する場所にそれらは設置すること。それが不可能な場合は寝室だけでも騒音レベルⅡに面した場所に設置すること。騒音レベルの高い建築面においては、ドア、窓、外壁、屋根などに防音仕様の工事を施すこと。ワンルーム住居の居室/キッチン/寝室、あるいは子ども部屋は寝室と定義する。

2.騒音レベルⅤに面した建築では、ダブルスキン等で、間取り上、居間が入る環境を騒音レベルⅢ以下に抑えること

3.騒音レベルⅢ以上の敷地については、他の住宅地内よりも容積率、建ぺい率を高め、防音壁の役割を果たすような容積率、建ぺい率、および配置とする

つまり、土地の分譲が行われ、その土地を購入した施主に対して、間取りの制限や防音対策の義務などが、通常の建築基準法に加えて、加算された形でBプランでは要求されるようになっています。

日本の感覚であると、その土地をどう使おうが所有者の自由、という感覚が強いのでなじまないかもしれませんが、ドイツの都市計画の考え方では、そういったルールを確立することで快適な居住空間を提供し、このエリアにおける不動産の資産価値を高めた状態に持続的に維持し続ける、ひいてはそれは土地所有者の保護となり、賃貸居住者をも守る、という考え方が色濃く入っています。

また、この開発時の分譲先は、市議会の決議によって、(自らが居住する予定の)市民の集まりである建築コーポラティブ(集合住宅を建築するための市民による組合)に対して、優先的に土地分譲が行われる場所と指定しています。しかし、上記の3.に該当するような容積率が高く、防音工事が必要な難しい開発の用地については、①市の住宅供給公社(市営賃貸住宅と分譲住宅)、および、②地域の信用金庫組合の子会社のデベロッパー、③市民主体で作成された住宅供給シンジケートに分譲されることが決まりました。

日本で不動産に関係する方のご意見はいかがでしょうか? なかなかしびれるほどの制約ですよね。次回は、騒音対策以外でも日本の一般常識とは全く異なる取り決めが行われていますから、その他のBプランにおける取り決めについても引き続き紹介してゆきましょう。