OPINION9水谷004

【論評】
<人口減少社会のなかでの資産形成>

日本特有の現預金に偏った個人金融資産を是正することは国益に叶った施策である

■日本の人口は予想を上回るペースで減少している

人厚生労働省によると、2019年に生まれた日本人の子どもは86万4千人となり、統計を始めた1899年以降で初めて90万人を下回る見通しとなりました。親になる世代の人口が減っていることが大きく影響しているのではないかとみられています。合わせて厚生労働省では、人口動態統計の年間推計を公表致しました。死亡数は、戦後最も多い137万6千人(前年比1万4千人増)となり、出生数と死亡数の差異である「自然減」は51万2千人と初めて50万人を超える結果となりました。2017年4月の国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計(日本人人口ベース)では、出生数が90万人を割り込むのは2020年、86万人台となるのは2021年と予測していたので、減少ペースは2年早まり、想定を上回るペースで少子化が進んでいることが浮き彫りになっています。

人口問題研究所データによると、65歳以上の人口は2040年の3,920万人でピークを打つと予想されています。ということは、現在の財政支出で最も重荷となっている医療・社会福祉による歳出も際限なく増加するという状況から転換するシナリオが考えられます。また、生産年齢人口は15~64歳とされていますが、さまざまな施策を導入することによって就業年齢を伸ばすことが可能になってきています。政府では。70歳台まで就業収入を得る機会を増やすことを目標にしているようです。また、人口動態予測には外国人の定住者増加による人口増はほとんど加味されていません(図表1参照)。

■生涯を通じて資産形成に向き合うべきである

日本人の将来人口推計によると、65歳以上の人口は引き続き増加傾向をたどりますが増加ペースは鈍ってくる予想となっています。これに対して生産年齢人口といわれる14~65歳は加速度的に減少すると予測されています。このことは働き手の減少を意味することから、今まで以上のスピードで自動化・ロボット化・AI化を導入が求められるようになってくるわけです。そして、健康な65歳以上の方に就業機会を提供すること、健康寿命を伸ばす施策に取り組むことが必要となります。
これまで、金融当局や金融機関では「貯蓄から投資へ」といったキャッチフレーズを謡ってきました。しかし、株式投資の比率はそれほど大きく変化していません。これからは、「貯蓄から資産形成へ」といった流れが大切だと思います。すなわち、生涯におけるお金との向き合い方が大切なのであって、運用によって資産を形成する期間と取り崩しによって生計を立てる期間を考えることが望ましいというわけです。

金融機関は前述の人口動態と資産形成のあり方について考えるべきでしょう。ここで大切なことは、「資産の取り崩しに関する考え方です。日本人の平均寿命は男性が81歳、女性が88歳とされていますが、男性の死亡率のピークは80歳代後半であり、女性は91歳だそうです。ということは、男性の場合、80歳代後半まで生きていることを前提に資産を運用し、取り崩さなければなりません。

■日本における個人金融資産は現預金に偏っている

日本の個人資産についてみると、2016年現在の個人資産は2,573兆円であり、1994年の2,440兆円に対してさほど増えていません。1994年当時の土地資産額は1,152兆円ありましたが、直近では700兆円程度となっています。現預金は同607兆円から937兆円と増加、株式・投資信託も152兆円から290兆円へと増えました(図表2参照)。

日本の個人資産の内訳をみると、現預金の比率が圧倒的であり、投資型商品の比率が低いことが特徴となっています。ちなみに、日本の個人金融資産は1,834兆円とされていますが、65歳以上が過半数を占めているとみられています。日本の個人金融資産は1,824兆円と過去30年間で2倍となりました。これに対して米国は同5倍、英国は同6倍になったようです。英国の場合、保険・年金のなかに非課税枠を使って株式投資ができる仕組みがあって、これが個人金融資産を押し上げているようです。

■2020年代は次世代のために構造改革を進める10年となる

2020年代は次世代のための問題解決に着手すべき10年になるのではないかと考えています。具体的には、制度疲労を起こしている「債務依存の財政構造の改善」、少子高齢化・外国人との共生化社会における「望ましい人口動態への取り組み」、気象変動をもたらすとされる「地球環境問題への取り組み」の3点に集約されると思います。このほかにも経済格差社会の是正、地政学リスクへの対峙、環境汚染対策などさまざまな問題が山積しているのが実態だと思います。

こうしたなかで、わが国の大きな問題は「金融機能の動脈硬化」だと思います。個人金融資産の過半数が現預金であり、公的債務が世界的にも突出して高く、貯蓄率が依然として上昇しているといった構図は明らかに経済成長にとってのブレーキとなってきています。2020年代は、外国人定住者の増加に伴う「医療・年金・教育制度の見直し」、頻発する「地震や台風など自然災害に対する備え」といった課題に対して、個人の資産形成のあり方とともに、滞留している現預金をどのように活用するべきか、真剣に議論する10年にしなければならないと思います。

 

一般社団法人 不動産総合戦略協会 客員研究員 水谷敏也