OPINION9水谷005

【論評】
<パンデミックと人々の意識の変化>
新型コロナウイルス感染症収束後には経済及び社会構造が大きく変化すると予想

■コロナ感染症拡大が終息するには相当程度の時間が掛かる見通し

国内での新型コロナウイルス感染症拡大は、ようやく収束に向かいつつあります。世界的にも感染者数のピークアウトが確認されつつありますが、依然として新規感染者数の水準が高いこと、発展途上国などで感染爆発のリスクがあることなどを考えると安閑としてはいられません。コロナウイルス第一波が収束しても、「大きく落ち込んだ経済活動の立て直し」と「秋以降に予想されるコロナウイルス第二波への備え」という二つの大きな課題が立ちはだかっています。コロナウイルス感染症が一旦収束しても、完全なる終息を迎えるにはしばらく時間が掛かるものと思われます。したがって、我々はウイルスと共存して生きていかなければならない時代になったのだと認識する必要があります。

感染症対策として最も有効なのは人と接触しないことです。このため、世界各国では入国制限、入国者に対する一定の隔離政策、そして国内での移動制限、飲食店の営業停止、イベントの禁止、学校・職場の閉鎖が実施されています。これから夏にかけては、様々な分野で営業自粛・禁止が解除されるものと思われます。とはいえ、感染リスクを勘案してゆっくりとしたスピードで解除することになるのではないでしょうか。飲食店にしても、「密」を避けるために椅子の間隔を広げたり、「飛沫防止」のために席の間にパーテーションを設置したりといった動きが出ているようです。当面は、接待を伴う飲食に対する自粛要請は続くでしょうから、飲食店を取り巻く環境は依然として厳しいと言わざるを得ません。

■過去の大不況と比較しても相当程度の経済の落ち込みが予想される

こうしたなかで世界経済は大きな落ち込みをみせています。2008年に起こったリーマンショックは100年に一度の経済危機として、1929年の世界大恐慌に匹敵する大恐慌になるのではないかとみられていましたが、今回のコロナショックはそれをも上回る大不況になると懸念されています。コロナ禍では、感染症拡大防止に伴う経済活動自粛により全世界であらゆる生産・消費活動がストップしてしまいました。特に象徴的なことは、ヒトの移動がほとんどなくなったことによって航空機、鉄道、バスといった交通需要が蒸発してしまったことです。この先、コロナウイルスが収束しても、「不要不急」の行動を控え、移動を伴う旅行・出張が元の状態に戻るにはかなりの時間を要するとみています。

ここで1929年のニューヨークダウ大暴落から始まった世界大恐慌当時のアメリカの状況を見てみましょう。当時のアメリカ経済は、①GDP水準及び生産指数はピークから半減し、②卸売物価指数はピークから3割下落、③失業率は24.9%にまで上昇、④銀行の倒産件数は6,000行に達し、⑤株価はピークから89.2%下落、といった燦燦たる状況でした。街には失業者が溢れ、政府は救済金を配布しましたが、国民は食費を賄うのが精一杯でした。その後、大不況を経て第二次世界大戦へと進んでいくわけですが、グローバル化が進んでいる今日ではこうしたシナリオは考えにくいと思われます。一方で、グローバル化の進展によって感染症拡大スピードが加速化してしまったことは紛れもない事実であり、未知のウイルスによる第二波、第三波の感染症拡大リスクを考えると、引き続き経済活動は大きく制限されてしまうかもしれません。

■今回の世界経済回復は中国頼みと言えるのか

2020年1~3月期のGDPは中国、アメリカ、日本ともマイナス成長となりました。特に、中国は1976年以来44年ぶりのマイナス成長でした。中国当局は、新型コロナウイルス感染症拡大を封じ込めたとアピールしていますが、海外の流行が中国に還流し、第二波、第三波の感染爆発が起こる可能性は否定できません。中国当局は、そうならないように手を打っておく必要性を認識していると思われます。ところで、中国当局の発表はかねてから疑念の見方をされていましたが、今回のGDP統計に関して中国政府がリアルタイムでマイナス成長を認めたことは画期的であったといえます。これまでも、マイナス成長が疑われる年がありましたが、国家統計局が発表する統計は常にプラスでした。中国のGDP統計は成長率が硬直的で、景気動向をみるうえでの機能が失われていました。しかし、GDP以外の経済統計との整合性が回復することによって、中国経済で何か起きているかということがある程度読み取れるようになるのではないでしょうか。

中国の2020年4~6月期GDP成長率はプラス転換するとみられているのに対して、アメリカ及び日本の成長率は大幅なマイナスが予想されています。アメリカはマイナス40%、日本はマイナス30%といった見方すら出ています。統計の取り方については各国ごとに事情が違うので一概の比較はできませんが、中国とアメリカ、ヨーロッパ、日本といった先進諸国の成長率に大きな格差がつき始めていることに注目せざるを得ません。この勢いでは、当初2030年頃とみられていた中国とアメリカの経済規模逆転も2020年代半ばに早まるかもしれません。先進諸国にとっては民主主義という共通の価値観を持たない国家の経済発展は看過できないといった見方もあり、どの国にとってもどのように中国と付き合っていくかが最大のテーマとなりそうです。

■株価の動きは何を示唆しているのか

さて、ここで株価の動きを見てみたいと思います。日経平均、ニューヨークダウともに新型コロナウイルスによる感染症拡大を嫌気して、2月から3月下旬にかけて年初来高値から30%以上の下げに見舞われました。チャートの動きはまさしくリーマンショックに類似した状況を示していました。ところが、4月に入ると、日経平均もニューヨークダウも戻り基調に転じ、リーマンショック当時のチャートとは異なる動きを示し始めました。3月下旬から4月にかけては日米ともにコロナ感染症者が拡大基調にあり、アメリカではロックダウン、日本では緊急事態宣言に伴う外出自粛により経済活動が大きく停滞を始めた時期でした。日本もアメリカも経済指標の大幅悪化が表面化するのはこれからのことです。株価の動きを説明することは非常に難しいことですが、株価指数が回復しているのは、①株式市場への資金流入額が増えている、②コロナ感染症が早期に収束することを織り込んでいる、③感染症及び経済面での国際協調に対する期待感が出てきている、といった要因が考えられます(図表1及び図表2参照)。

確かに、株価下落により株価がバーゲン価格にまで下がったことで、長期運用資金や個人投資家が買いやすくなったことは頷けます。しかし、「コロナ感染症の早期終息」や「国際協調の実現性」については懐疑的にならざるを得ません。仮に、今回の第一波が収束を迎えても、第二波、第三波のリスクを考えると楽観的過ぎると思われます。国際協調という点ではむしろ各国とも自国第一主義に走っている印象すらあります。株価の動きは絶対ではありませんし、これから変わってくるかもしれません。しかし、株価は我々が想定していない何かを示唆しているのかもしれないといった観点でみると面白いと思います。

■コロナショックによって、日常の世界観が一変する可能性がある

今回のような、感染症拡大に伴う社会・経済活動の停止についてはほとんどの人が初めて経験するのではないでしょうか。今回のコロナウイルスがいつ完全終息するかは現時点では見えていませんが、終息後には世界観が大きく変わってくると思われます。まず、働き方改革として、テレワーク、時差出勤、サテライトオフィスといった取り組みが一般的になってくるでしょう。そして、日常生活でも、ウエブ会議、オンライン飲み会、オンライン教育、オンライン診療といった新たな潮流が出てきました。家族や仲間内で旅行に行ったり、食事に行ったりすることは楽しいことですが、オンライン対応の方が効率的な分野ではどんどんオンライン化が進むのではないでしょうか。

人との接触を出来るだけ控え、人との距離を意識することは「新たな生活様式」と言われています。これまでの価値観を180度転換する考え方となります。ウイルスと共存するには受け入れるしかないということなのでしょう。人々の移動制限によって、世界の観光産業、飲食・サービス業、運輸業は壊滅的なダメージを受けることになりました。テレワークの普及によって都心部へ人々が集中する傾向にも変化が出てくるかもしれません。終息後の社会の姿を想像するには早いかもしれませんが、生活スタイルが構造的に大きく変化してくる可能性が高いと思われます(図表3参照)。

コーポレートガバナンスでも、従来の「株主第一主義」が見直されて、「雇用確保重視」「ESG重視」といった体制へシフトしてくると考えられます。また、企業の優先度も、「収益第一主義」から、「社員の健康重視」「財務体質重視」「集中より分散化」といった方向に変わってくるのではないでしょうか。従来、世の中の価値観は「経済>社会>健康」であったのが、「健康>社会>経済」に変わっていくように思います。そもそも、健康・生命は人々にとって最優先であったはずが、健康が当たり前の時代が長く続くと優先度が下がってきたように感じます。ちなみに、健康維持にとっても社会活動拡大にとっても経済はとても大切なものであり、経済活動は問題解決のための礎であることは間違いありません。

これからの企業は従来以上に従業員の健康管理を経営的視点から捉えて、戦略的に実践していくことが大切になっていくと思われます。企業によるリスク情報は、財務リスク、災害リスク、事業リスク等に関して言及することが殆どとなっています。勿論、こうしたリスク情報を整理し開示することは重要なことですが、今回のコロナ騒動をみていると、「従業員や利用者に対する健康リスク」「今回のような感染症拡大が事業に与えるリスク」「リスク低減のための投資と費用の算定」といった内容の開示も必要になってくると考えられます。既に海外企業においては、気候変動リスク、健康リスクといった事象についても言及しているケースが増えているようです。危機というのは起こってから対処しては遅いと言われています。危機が起こる前に予め準備しておくことが必要になります。これからも世界を巻き込んだ感染症拡大といった事態がいつ突然やってくるかわかりません。従業員が「避難」「隔離」「入院」することによって企業は大きなダメージを被ることになります。こうしたリスクに真摯に向かい合わなくてはいけない時代になってきたといえるでしょう。

一般社団法人 不動産総合戦略協会 客員研究員 水谷敏也