OPINION9水谷006

【論評】
<コロナ感染症と実態経済の状況>

・コロナ感染症の収束が見えないなかで、実体経済は緩やかながらも回復軌道に向かっている

■コロナ感染症拡大によって不確実性の時代が現実のものとなってしまった

まさか自分が生きているうちに「パンデミック(感染症の世界的大流行)」に見舞われるとは思ってもみませんでした。しかも、現在もなお感染拡大が続いており、収束のメドは立っていません。仮に感染症拡大が一時的に抑えられたとしても、ワクチンの開発状況、ウイルスの変異といった状況を勘案すると、年内或いは年明け早々に収束する可能性は小さいと言わざるを得ません。
感染症拡大の結果、世界的な行動制限によって経済活動は大きな打撃を受けており、先進国の経済成長率は1930年代の世界大恐慌以来となる大幅な落ち込みを見せています。ここでは、まず新型コロナウイルス感染症の実態を整理したうえで、足元の経済状況について確認したいと思います。新型コロナ拡大によって、①リアルとバーチャルの融合、②テレワークに代表される働き方改革の推進、③生命・健康に関わる価値観の高まり、を基軸とした「ニューノーマル時代」が到来しています。ニューノーマル時代に、実体経済はどのように変わっていくのか興味深いテーマだと思います。

■今回の感染症は国や地域による感染状況の違いが余りにも大きいことが特徴

わが国の新型コロナウイルス感染状況は、7月に入ると第二波とみられる動きを示しはじめ、8月になると一日当たりの全国感染者数が千人を超える日が常態化してしまいました。第一波との違いは、①死亡者或いは重篤患者数が少ないこと、②20~30歳代の若年層の感染者が増えていること、③無症状者の比率が上がっていること、等が挙げられます。第一波とは、明らかに感染パターンが異なっており、死亡者や重篤患者数がある程度抑えられています。とはいえ、感染者数は増えているので医療逼迫リスクは高まりつつあると言えるでしょう。

世界の感染状況をみると、現時点(2020年8月17日)での感染者数は2,200万人、死亡者は80万人近くとなっています。各国の感染状況をみると、欧州及び北南米諸国に対して、東アジア各国の人口当たりの感染者数及び死亡者数が少なくなっています。この要因については、①ウイルスの種類、②食生活や生活スタイル、③政府の対応、④人種特性、⑤医療体制、など様々な要因が言われていますが、どれも決定打とはなっていないようです。いずれにせよ、今回の新型コロナウイルスの感染状況は明らかに国や地域による違いが現れています。このことを偶然で片づけてしまうにしては余りにも大きな差異であるといえるのではないでしょうか。政府、専門家、メディアはこの点についての仮説を立て、実態を検証し、今後のシナリオを議論することが大切であるにも拘わらず、余りこうした取り組みを行っていないと感じられます(図表1参照)。

■アジア諸国では台湾とベトナムが秀逸な状況であったが、刻々と変わってきている

一時、わが国の感染状況が落ち着きつつあった頃、①BCGなど幼年期の予防接種の効果、②人種的免疫力、③気候・風土・生活習慣の違いといった要因が指摘されていましたが、昨今の感染者数の増加によって、こうした声はほとんど聞かれなくなってしまいました。もちろん、国民ひとりひとりの衛生意識の高さが感染拡大を抑え込んだ一因となったことはいうまでもありませんが、アジア諸国のなかでわが国だけが感染症を抑え込んだという見方は正しくありません。アジア諸国のなかでは台湾とベトナムに代表されるように人口対比で感染者を抑え込んでいる国々が散見されます。ベトナムは8月上旬まで死亡者数ゼロという状況でしたが、最近では死亡者が出てしまいました。また、台湾では感染者が現在でも400人程度に抑えられています。台湾ではIDと個人情報を紐づけることによってマスクの買い占めを制御したり、検査体制をコントロールしたりしてきました。わが国の場合、検査数が少なすぎると指摘されていますが、実は台湾の検査数をみると人口比では日本よりも少なくなっています。台湾の場合、効率的に検査をして感染拡大を抑えてきたのだと思います。

中国、べトナム、韓国、台湾といった国々は、SARS、MERSいった感染症の被害を受けた経験から、感染症に対する警戒感が強く、初動が早かったことが今回の感染被害を最小限に抑えられた要因ではないかとみられています。わが国や欧米諸国は、これまで感染症に対する防衛が十分ではありませんでした。わが国の感染症行政に対しては、検査数の引き上げと病床数の増大を提唱する意見が多くなっています。しかし、検査数拡大に伴う感染者数が増加することによって医療体制が逼迫したり、病床数増大によって医療スタッフが逼迫したりするといった議論が置き去りにされている印象があります。本来、こうした利害関係を調整することは政治の大切な役割であると考えられます。

■外出自粛により、小売業をはじめ経済活動の落ち込みは長期化している

今回の新型コロナウイルス感染症拡大は、人々に多大なる行動制限をもたらしました。国によって強制力の違いはあるもの、都市封鎖、外出制限、飲食店などの営業停止、学校の休校、職場封鎖などあらゆる分野で行動制限が課されました。わが国では法的強制力を伴わない自粛要請でしたので、海外諸国に比べるとある程度外出の自由は許容されていましたが、入国制限によるインバウンド需要の蒸発、企業活動の大幅低下、国内移動の減少によって経済全体では大きなマイナス影響を受けています。ここからは、足元における消費活動、生産活動、雇用・所得環境面の状況を見て参りましょう(図表3参照)。第一に、消費活動ですが、今回は4月から5月にかけて百貨店の売上高が事実上の休業要請を受けて大きく落ち込みました。これまで成長を続けていたコンビニの売上高が3月以降マイナスを続けていることは驚きです。これは外出制限により出勤する頻度が減ったため、都心部のコンビニ売上高がマイナスとなったことが影響しているようです。
企業の生産活動については、現時点では大幅な落ち込みには至っていません。リーマンショック当時も生産活動が大きく落ち込んだのは、リーマンショック発生後半年程度経過してからであり、今回に当てはめると秋口以降の生産活動に急ブレーキが掛かることが懸念されます。企業の場合、意思決定から実行に移すまでに時間が掛かるという「タイムラグ効果」があるため、景気に対する遅効性が働くからです。今回の場合、自粛不況であり、感染者の増加によって自発的に行動を制限しようという人々の意識が経済活動に影を落としています。建設受注の場合、最大の発注先である不動産業の設備投資マインドが不透明な状況にあります。今回のコロナショックにより、テレワークが一挙に普及した結果、「オフィス不要論」が出てきました。テレワークの普及が直ちにオフィス不要に結びつくとは思えませんが、オフィス供給計画を改めて見つめ直すきっかけとなる可能性があると思われます。

雇用・所得環境については1~2年は厳しい状況が続く恐れがあります。日本の場合、人手不足環境のもとで、雇用・所得環境については追い風が吹いていました。新卒採用市場は売り手市場でしたし、中途採用市場も活況を呈してきました。しかし、コロナショックによる売上高の蒸発で状況は一変してしまいました。新卒採用については、「採用活動停止」、「内定取り消し」、「採用枠の絞り込み」といった動きが相次ぐことになりました。さらに、中途採用市場の冷え込みもさることながら、派遣社員の契約解除、雇止めといった状況も広がってきました。ちなみに、「雇止め」とは、派遣社員に対して会社が契約更新をしないことであり、労働者を景気の調整弁とみているという点で不適切な対応とされています。
6月時点での有効求人倍率は1.10倍と急速に低下してきましたが、埼玉県、千葉県、神奈川県では1倍を割り込んでおり、一気に「雇用冬の時代」となってしまいました。飲食業、小売業、サービス業などで売上高低迷を背景に従業員やアルバイトを解雇する動きが広がっていることに加えて、インバウンド需要を謳歌してきた、旅館・ホテル業、観光業、航空業界では事業継続に懸念がもたれる状況となっています。

家計消費支出は5月に前年比16.2%減と過去最大級の落ち込みとなりましたが、6月には同1.2%減と急速な回復を示しました。6月の家計消費支出が回復したのは、巣ごもり需要に伴うパソコン、ゲーム関連、食料品支出が増えたことに加えて、住宅の増改築などリフォーム工事費、自動車購入費などの増加が寄与しています。住宅のリフォームについてはテレワークに対応した改装工事が増えているのではないでしょうか。一方、自動車購入は公共交通機関を利用した通勤から、感染症を避けるために自家用車通勤に切り替える人が増えてきたのではないでしょうか。こうしたことから、新型コロナによって生活スタイルを変えざるを得ない状況が浮かび上がってきます。

■これからの経済活動は大きく変わってくる可能性がある

コロナ感染症拡大の長期化によって、人びとの行動変容は大きく変わってくると予想されます。第一に、リアルとバーチャルとの融合であり、「オンライン会議」「オンライン授業」「オンライン営業」「オンライン飲み会」「オンライン株主総会」などが一般的になると思われます。また、都心部に集中していた仕事場や住居は、分散化の方向をたどるのではないでしょうか。そして、いままで以上にテイクアウトやデリバリーが浸透しそうです。企業にしても、利益ばかり追求するのではなく、従業員の雇用と健康、地域社会に対する支援活動、取引先に対するサポートといった取り組みが何よりも大切になってきます。どんどんテレワークが普及すると、中間管理職の役割が問われることにもなりそうです。ピンチはチャンスと言われているので、今回のコロナ感染症はいろいろなやり方や仕組みを変える好機であると捉えることが望ましいのではないでしょうか。新型コロナウイルスは我々に何を問いかけているのか、改めて考えてみたいと思います。

一般社団法人 不動産総合戦略協会 客員研究員 水谷敏也