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【論評】

<コロナにおける東南アジア不動産の現状と今後の見通し>

日本で想像している以上に東南アジアの経済状況は見通しがつかない現状である。不動産市場に目を向ければ、先行きの見えない厳しい現状を踏まえ取引や投資に関するイノベーションが起きうる要素が強いと考える。

■Covid-19の現状を受け

東南アジアにおけるCovid-19の現状は、日本で考えられている以上に大きいといえる。ASEAN諸国は6億人の人口を抱える一大商業圏だが、10カ国で構成されていることからわかる通り域内の通行が遮断される今回のパンデミックが与える影響は非常に大きい。例えば、観光業が主産業としていたタイは今年最もGDPの落ち込みが激しい見込みだ。非常に厳しい規制を実施しコロナ対策で優等生であったベトナムにおいても観光業は重要な産業である。また1億人の人口を擁する島国フィリピンは東南アジア一の感染者数となり、現在33万人を突破し、再びロックダウンをする懸念もある。フィリピンの場合は外国で働く出稼ぎ労働者が解雇により国内に戻って生きている状況で、その数は20万人に上っている。国内失業率は国の財政を圧迫する要因となる。

東南アジア不動産マーケットにおいては、今は紛れもなく、テナントにとっても投資家にとっても、非常に大変な時期といえる。クッシュマン&ウェイクフィールドによれば、「Covid-19の反響は急速かつ驚異的で、さらなるダウンサイドのリスクは今後もしばらく残るでしょう。しかし、好景気にはいずれ終わりが来るように、不景気にも終わりが来ます。域内にはすでに景気回復の兆しが見え始めています。」とあるが、実際はどうなのだろうか。アセットタイプごとの現状を確認する。

東南アジアの商業不動産

経済的には、IMFが提示した「最も楽観的な予測」によれば、2021年の力強い経済成長を前に、2020年後半期は安定期になると予想されており、アジア圏の各国がバウンスバックする見込みとなる。不動産市場によれば、アセットタイプによる勝ち負けに関していえば、商業用不動産市場の回復は後れを取ることは間違いない。シンガポールでは未だに5名以上の集会を厳しく禁止している状況で、スペース需要および賃料は、後半期にかけてさらに減速することが予想されている。日本と異なり厳しい規制を要求している東南アジア諸国は、インバウンドや移民を前提とした人口増及びフローの商業店舗の供給がなされているため、日本の飲食店廃業のような状況以上に厳しい現状と現地から報告を受けている。このような現状を踏まえ、例えばフィリピンではレンタルリリーフが商業テナントに限って開始されている。これはオーナーの財政を更に圧迫することにもつながる。

東南アジアのレジデンシャル

高品質なレジデンシャルアセットの価格は競争力を維持するとみられているが、これも国によって状況は大きく異なる。コロナ前から多くの住宅在庫を抱えていたタイ及びマレーシアにおいては在庫調整完了までのスケジュールに影響を及ぼしている。以下グラフはオーバーハングと呼ばれるマレーシアの竣工後9ヶ月売れ残っている住宅数を指す。一方、高品質なレジデンシャルアセットの値下がりが顕在化しない理由は、購入する(した)投資家の資金力から価格下落による売却事例が多く顕在化しないためだ。一方でハイレバレッジによる投資や属性の低い投資家の資産には、オポチュニスティック型の投資家からの回収がおきる。これらの変化が起こるスピードは市場によって異なるが、現在はミドルエンドからローエンドでの不動産からスタートすると見られる。

施策と見通し

2020年の東アジア経済の見通しは、2.0%から1.3%へと下方修正された。これは、2020年の中華人民共和国の景気の拡大が1.8%しかないことを反映している。しかし、中国経済は、2021年には7.4%のリバウンドし域内の成長率を6.8%に引き上げることが予想されている。しかしこれは中国からのインバウンド需要があることが前提となり見通しは楽観的だ。東南アジアは、消費、投資、貿易において大幅な減少に苦しむ。域内経済は、2020年には2.7%の縮小、2021年には5.2%の成長が見込まれている。これについても消費活動においては国境をスムーズになることが前提の予測である。域内のインフレ率は、2020年は2.9%、2021年は2.4%と良性な状態を保つ。下押しされた需要と低い原油価格を反映しているためである。(上記はアジア開発銀行(2020年6月)とASEAN政策概要(2020年4月)の主要データより)

フィリピン、マレーシア、タイ、ベトナムの政府はそれぞれ、パンデミックの影響に対抗する様々な対策を打ち出した。景気刺激策には、税制優遇措置、支援対象を絞ったサポートや現金支給を含む補助金、ローン返済や年金拠出の猶予期間などが含まれている。中央銀行も利下げや準備金要件の引き下げを行い、国債を購入するなどを通じ市中へのマネー供給を支えている。一方で、急激な政策金利の低下により投資用不動産に関してはマネーが流れ込んできている状況で不動産価格の大幅な下落は見られない。同時に渡航が必要なくオンラインでの不動産内見により適法に物件購入を可能とする法制度の改正や仕組みが整いつつある現状だ。

Covid-19が引き起こした不確実性に包まれ、世界経済は大不況に直面している。隔離措置、ロックダウン、渡航制限などにより、企業によっては大打撃を受けており、これは不動産業界にも当てはまるが、商業用不動産のテナントの不況とは裏腹に、東南アジア成長国の一斉な政策金利の低下によりイールドギャップが生まれている現状もあり、投資マネーの流入は期待できる状況となっている。

東南アジアにおける不動産業界関係者は、現在、その目を向ける先を変え、既存・将来のプロジェクトをCovid-19による変化に対応するように設計し直すなどしている。オンラインで業務ができることで、英語で業務ができれば世界の至るところで組織づくりをすることができることでオフィスニーズが増えるエリアではソーシャルディスタンスを保ったゆとりのあるオフィス設計がなされる。この動きは本パンデミックで加速度的となり言い換えれば今の状況を、新しい成長市場を発見するためのオポチュニティとしてとらえることができたと言える。不動産環境を改善し、ニュー・ノーマルに適応しよう動きはすでに始まっており、厳しい現状の東南アジアでは早期にイノベーションが生まれる要素があると考えている。