OPINION9水谷007

<最近の雇用状況について>

・コロナ感染症によって、真実の雇用の姿があぶり出されてきた。2021年も厳しい雇用環境が続く見通し

有効求人倍率は悪化傾向にあるが、都心部よりも地方圏が健闘している事例も

厚生労働省が公表している「一般職業紹介状況」によると、これまで堅調に推移していた労働市場でしたが、コロナ禍で大きく悪化しています。2020年9月の有効求人倍率(求人数/求職者数)は、全国平均で1.03にまで低下し、東京都を除く首都圏各県では何れも1倍を割り込んでいます。ちなみに、リーマンショック時の有効求人倍率は0.42倍まで低下し、1件の求人を2人以上で取り合う状況でした。今回の場合、政府が「Go To キャンペーン」政策を打ち出しており、国内景気改善に伴う求人の回復をはかっているので、リーマンショック当時ほどの落ち込みは回避できるとみられます。但し、大手企業で希望退職募集などの動きが出てきているため、雇用環境の悪化については予断を許さない状況にあると思われます。

こうしたなかで、地方圏(秋田県、福井県、島根県、岡山県など)の有効求人倍率が東京都の水準を上回っていることが注目されます。これらの地域は、若年層を中心に都心部への移住が進んだ結果、必要とされる仕事量に対してなかなか人が集まりません。ちなみに、9月の求人数は東京都の23万人強(有効求人倍率1.19倍)に対して秋田、福井、島根、岡山4県合計で9.2万人(有効求人倍率1.35倍)となっています。現実的には、仕事を探すのであれば東京都にとどまっているより、地方圏に移住した方が見つけやすいといえます。ちなみに、9月の有効求人倍率は、関東地方では茨城県の有効求人倍率が1.19倍に対して、神奈川県0.74倍、千葉県0.85倍、埼玉県0.86倍、東京都1.19倍となっています。昨年まで7年連続で都道府県別魅力度ランキングが最下位だった茨城県が健闘しているわけです。茨城県については、比較的東京に近いことに加えて、コロナ感染症の人口当たり感染率が東京の10分の1程度にとどまっていることから、経済活動がそれほど落ち込んでいないことが推察されます(図表1参照)。

業種別求人数には温度差がみられ、建設系は比較的堅調に推移している

業種別の求人数をみると、広範囲にわたって減少していることがうかがわれます。9月の新規求人数を業種別動向にみると、建設業が前年比5.9%増、教育・学習支援業が同0.2%減、医療・福祉が同7.8%減、学術研究・専門・技術サービス業が同14.8%減、不動産業が同15.3%減、情報通信業が同21.8%減、運輸業・郵便業が同25.1%減、製造業が同26.7%減、卸売業・小売業が同28.3%減、宿泊・飲食サービス業が同32.2%減、生活関連サービス・娯楽業が同32.9%減となっています。会社の規模別では、従業員500~999人の企業が同12.7%減となっているほかは、小規模から大企業に至るまでほぼ前年比20%前後の落ち込みとなっています。宿泊・飲食サービス業については5月の求人数は前年比55.9%減でしたので、多少なりとも持ち直しているといえそうです。

建設業の場合、構造的な人手不足によって、コロナ禍でも比較的安定した求人状況で推移していました。4月の求人数は前年比15.8%減と2桁減少しましたが、製造業、宿泊・飲食サービス業、生活関連・娯楽業が軒並み前年比40~50%台の大きな落ち込みになったのに比べると比較的軽微な落ち込みにとどまりました。さらに、6月には前年比プラスに転じ、9月もプラス5.9%と雇用面での改善が表面化しています。これに次いで回復しているのが、教育・学習支援業となります。こうした業種の場合、一定程度の需要が見込まれることが特徴になっていると思われます。すなわち、建設業であれば、災害復旧や災害予防といった公共事業の発注が見込まれること、そして現場労働者の高齢化に伴う離職の増加が求人状況に表れているのではないでしょうか。また、教育・学習支援については生涯学習に対する関心の高まりに加えて、オンライン授業の普及によって参入障壁が低下していることが背景になっているものと考えられます。

有効求人(企業が募集する人数)の動きをみると、2019年3月以来18カ月連続マイナスとなっています。特に、20年4月以降は、コロナ感染症拡大によって前年比20%超のマイナスが続いています。一方、有効求職(仕事を求める人数)の動きをみると、本年3月までは前年比プラスマイナス2%を行ったり来たりしていました。4月は前年比2.3%減、5月は同3.1%減となりましたが、これはコロナ禍で求職活動が制約されていたためと思われます。感染防止対策として、自宅待機と外出自粛の浸透により職探しもままならなかったということだったのでしょう。ところが、6月に同3.5%増とプラスに転じ、7月同7.2%増、8月同12.2%増、9月同14.3%増と月を追って増加率が高まっています。9月の有効求人者数は194万人と200万人に迫る水準となっています。月次ベースの新規求職者数は8月以降マイナスとなっていますので、求職期間が延びていることが窺われます。

有効求人倍率では、「建設関連」「警備員」「医療福祉系」が高い

こうしたなかで、職種別の有効求人倍率には大きな差異が見られます。9月の職種別有効求人倍率(厚生労働省編職業分類ベース)によれば、有効求人倍率が高い順に、①建設躯体工事の職業で8.81倍、②採掘の職業6.81倍、③保安の職業(警備員)6.64倍、④土木の職業5.71倍、⑤建築・土木・測量技術者5.02倍、⑥建設の職業4.04倍、⑦電気工事の職業3.56倍、と建設関連が名を連ねています。相対的に有効求人倍率が高いのは、介護サービスの職業3.82倍、家庭支援サービスの職業3.80倍、保健・医療サービスの職業2.64倍、医療技術者2.50倍となっており、「建設関連」「警備員」「医療・福祉系」は仕事を見つけやすくなっています。尤も、こうした職業については、きつい、辛い、危険といったイメージがあることに加えて、一定の資格が必要なことから。コロナ禍でも求職者がそれほど増えていません。逆に、有効求人倍率が1倍を割り込んでいるのは、美術家・デザイナー等0.24倍、一般事務の職業0.26倍、機械組み立ての職業0.34倍、船舶・航空機運転の職業0.45倍、製造技術者0.48倍などとなっており、「事務系」「製造業系」「運転系」については求人情報が限られていることが反映しているようです(図表2参照)。

2021年も厳しい雇用環境が続く見通し

景気動向については、いろいろな見方がありますが、少なくとも1~2年のうちに好景気が訪れる可能性は小さいのではないかとみられます。そもそも、コロナ禍で国内需要が落ち込んでいることに加えて、中国を除く海外経済の調整も長期化しそうなことから、貿易活動、観光業等の回復も一定程度にとどまると考えられるからです。したがって、2021年の雇用環境は底値を探る展開となるのではないでしょうか。一部の大企業では、人員削減に動いており、今年度中に希望退職を募集するといった動きが続きそうです。航空・鉄道・バスといった旅客業については、感覚的にみて、2019年までの水準に需要が回復するのは少なくとも5年程度は掛かるのではないかと思われます。企業によるイベントの件数は大きく減るでしょうし、オンライン会議の便利さを知ってしまっては、時間とお金を掛けて海外出張する機会が戻ると考えられません。以上のことから、2021年は雇用環境がもう一段の悪化することを前提に企業活動を展開すべきではないかと考えています。

(作成日:2020年11月6日)

一般社団法人 不動産総合戦略協会 客員研究員 水谷敏也