OPINION9水谷009

【論評】

 <公示地価動向について>

・公示地価は6年ぶりにマイナスに転じたが、上昇地点も2割程度あり、半期ベースでは回復の兆しをみせている

全用途平均は6年ぶりに下落に転じたが、短期的に回復する可能性がある

 3月23日、国土交通省より「令和3年の全国公示地価調査」が発表されました。同調査は、毎年1月1日における基準値1㎡当たりの価格を調査し公表するものであり、9月に発表される都道府県地価調査と並んで不動産市況をみるうえでの指標となるものといわれています。今回の結果を整理すると、①全用途平均は6年ぶりに下落した、②三大都市圏では東京圏、大阪圏、名古屋圏何れも8年ぶりに下落に転じた、③地方圏では下落に転じたが、地方四市は上昇を継続した、といった点が挙げられます。全体としてみると、地価はピークアウトしていますが、半年ごとの推移ではすでに底入れをしている地点も多く、地価が下落傾向に転じたと判断するのは早計だと思われます。

昨年からの変化率をみると、商業地の方が住宅地より大きく、三大都市圏が地方圏より大きいことがうかがわれます。新型コロナ感染症は、都市圏から地方圏への人口移動を誘発し、外出自粛により商業施設やホテルに対して大きなマイナス影響を及ぼしています。現時点ではコロナ収束のメドは立っていませんが、ワクチン接種の浸透、経済活動の再開、流動性供給の拡大等によって不動産市場が一段と冷え込む可能性は低く、短期的(1年以内)に底入れするのではないかとみられています(図表1参照)。

住宅地では、地方圏での地価が意外と健闘している

 2021年の住宅地の不動産価格は、全国ベースでは5年ぶりに前年比マイナスに転じました。この背景として、不動産取引件数の減少、雇用・賃金情勢が不安定になったことによって需要者が価格に慎重な態度を取るようになったこと、などが挙げられます。住宅地価格が下落に転じたとはいえ、マイナス幅は軽微であり2022年以降もマイナス基調が続くかどうかについて判断するのは早計とみています(図表2参照)。

 今回の特徴は、名古屋圏でのマイナス幅が大きかったこと、地方四市は引き続き上昇していることの2点です。名古屋圏で下落率が大きかったのは、2020年までの地価上昇率が相対的に高かったことによる反動に加えて、コロナ感染症拡大の影響もあって愛知県からの人口流出が影響しているためと思われます。一方、地方四市をはじめ地方圏の主要都市では、伸び率は鈍化したとはいえ、地価上昇が継続していることが注目されます。この点については、地方圏はコロナ感染リスクが小さく、働き方改革などによって地方に移住する人口が増えつつあるためとみられます。とはいえ、現時点では都市部から地方圏への人口移動が加速化しているわけではありません(図表2参照)。

商業地では、住宅地以上にコロナショックのマイナス影響を受けている

 商業地の地価の動きも住宅地とほぼ同様となっていますが、三大都市圏での地価下落率は住宅地に比べると大きくなっています。これは、2015年以降の地価上昇を牽引してきたインバウンド需要、企業による設備投資といった法人需要が、コロナの影響で消滅してしまったためではないかと推察されます。特に、国内外の来訪客(観光客)増加により恩恵を受けてきた商業施設、ホテル需要が蒸発してしまったことが効いています。ホテルに関しては、コロナ後も急激な需要回復が見込めないとみられることから、2021年に入ってからも売却計画の動きが増えているようです。

 一方、三大都市圏の中心部から離れた商業地や地方圏の路線商業地など日常生活に必要な店舗等の需要を対象とする地域では上昇地点もみられています。不動産価格は需給によって決まるという基本原則があり、日常生活に密着した物件では大きな価格変動は起こっていないと言えるのかもしれません。また、コロナによって都心部でのオフィス不要論が取りざたされましたが、雪崩を打って都心部のオフィスが解約されているといった状況にはなく、過度に懸念する必要はないと思われます(図表3参照)。

半年ごとにみると、地価の底入れが確認されつつある状況

 さて、次に半年ごとの公示地価変動率を見ていきたいと思います。住宅地、商

業地ともに、コロナの影響による経済活動の低迷から、令和2年(2020年)前半は地価が下落しましたが、後半は下げ止まり若しくは底入れといった状況になっています。大阪圏及び地方圏その他の地域では、年後半も下落が続いていますが、下落幅は縮小していることから2021年にはプラス転換となる可能性が大きいと思われます(図表4参照)。

住宅地の地価上昇率上位は北海道に集中している

 住宅地の変動率上位の状況をみると、ベスト10のうち北海道が7地点と圧倒的で、次いで福岡県2件、沖縄県1件となりました。ちなみに、令和2年(2020年)の公示地価の変動率上位10地点は、沖縄県4件、北海道2件、愛知県2件、福岡県2件でした。また、上昇率でもトップの上昇率は2020年では前年比44.0%増だったのが、2021年では同25.0%増とモメンタム(勢い)が低下してしまいました。2020年では10位地点の上昇率でも前年比21.5%増でしたか、2021年は同10.8%増にとどまりました。

 上位の顔ぶれは北海道寡占化となっていますが、倶知安はニセコを中心としたリゾート地であり、北広島市は2023年に日本ハムファイターズの新球場建設が予定されていることが追い風となっているようです。すなわち、コロナ後に回復が予想される北海道を代表するリゾート地、新球場開業を当て込んだ不動産価値上昇といった特定の理由による住宅地価の上昇であり、一般的な住宅地価格が上昇しているわけではなさそうです(図表3参照)。

商業地の地価上昇率上位は福岡県に集中している

 住宅地の変動率上位の状況をみると、ベスト10のうち福岡県が8地点と圧倒的で、次いで北海道が2件となりました。ちなみに、令和2年(2020年)の公示地価の変動率上位10地点は、沖縄県4件、大阪府3件、北海道1件、福岡県1件、東京都1件でした。また、上昇率でもトップの上昇率は2020年では前年比57.5%増だったのが、2021年では同21.0%増とモメンタム(勢い)が低下してしまいました。2020年では10位地点の上昇率でも前年比34.0%増でしたか、2021年は同11.9%増にとどまりました。

 上位の顔ぶれは福岡県寡占化となっていますが、これには以下の理由が挙げられると考えられます。すなわち、①東京圏、大阪圏、名古屋圏に比べるとコロナ感染者が増えていない、②天神ビックバンなど大型再開発計画が進められている、③大都市の中では人口流入が続いている、④距離的にアジア圏に近いことからコロナ後の経済回復が期待できる、といった点となります。確かに、福岡県は空路を使えば東京からの移動も便利であり、九州全域から労働力が集積されています。バスや地下鉄等の交通網も発達しており、居住コストや生活物価も安いようです(図表3参照)。

コロナ後にはどんな世界が待ち受けているのであろうか

 地価動向は遅効性があり、地価と実勢価格には乖離がみられることから、公示地価が実態価格を表しているとは言い難い状況にあります。とはいえ、ここ数年続いていた不動産価格上昇の局面は転換期を迎えつつあることは間違いないと思われます。アフターコロナにおける国内不動産市場は、ホテル・物販店舗についてはインバウンド需要の蒸発や人々の行動変容によって需要の低迷が続くとみられるものの、世界的なカネ余りに伴う流動性増大によって不動産市場への資金流入が期待できる状況にあります。したがって、不動産価格が大きく下がる可能性は小さいのではないかと考えられます。実際のところ、足元の成約価格も一定程度の水準を維持している模様です。

 コロナ禍において、東京オリンピックの開催延期、インバウンド需要の大幅な落ち込み、都心部でオフィス需要の縮減、といった三重苦に見舞われましたが、2021年はこうした問題に対する一定の方向性が見出せるのではないかと思われます。オリンピック対応では、外国人観客の受け入れ見送りを決めたほか、選手や関係者に対する感染対策や医療体制の整備を進めていくことになります。インバウンド需要については、世界的な感染症拡大によって向こう3~5年程度は観光需要の低迷が続くことが懸念されます。さらに、企業によるテレワーク推進によって「都心中心部に立派なオフィスが必要なのか」といった見方が出始めており、住宅地同様に商業地でも分散需要が進むのではないかとみられます。

 アフターコロナ時代には、人々の行動変容によって、①感染対策を軽視したビフォアコロナ時代に回帰する可能性は小さい、②都心部中心の就業・居住志向の意識が変化してくる、③オンラインとオフラインとの共存社会が進む、といったことが想定されるのではないかとみています。そして、業種や規模を問わず、企業にとって従業員や顧客に対する健康管理が益々大切になってくると考えられます。これまで「健康経営」と言えば、企業のスリム化を意図する意味で使われてきましたが、これからは「人間の体に対する健康」という意味が強く意識されることになると思われます。

(作成日:2021年5月7日)
一般社団法人 不動産総合戦略協会 客員研究員 水谷敏也