OPINION9村上002

【論評 003

<ドイツにおける都市計画(その2)>

 前回のコラムでは、ドイツの都市計画制度の枠組みについて、概要を紹介しました。

 「建設誘導計画」は、Fプラン(土地利用計画)とBプラン(建設計画)のセットで各自治体が策定権限を持っていますが、今回は、具体的な不動産の建設、建築行為における法規制(条例)となる建設計画Bプランについて紹介し、その際には自然保護法との兼ね合いから、どのような運用が行われているのか、また持続可能性についても議論してゆきたいと思います。

■ドイツの建設誘導計画と自然保護法の規定

ドイツの連邦自然保護法は、構造として、日本の自然環境保全法と同じように、国立公園などの特定区域の保護を規定する部分(第4章など)と、そもそもドイツの全領土において適用される自然と人類の社会的行為との関連を規定する部分の二つの構成で成り立っています。

日本には存在しない概念なので、少し長くなりますが、第一章・第一条・第一項について、簡単に私が邦訳したものをここに掲載します:

連邦自然保護法 第一条 自然保護と景観保護の目的

(1)自然と景観は、それ自身が保有する価値のため、人類の生存、および健康の基盤のため、また、将来世代への責任として、入植地においても、それ以外の領土においても、次の項目について、永続的に保全される。
1.生物多様性
2.自然会計における能力と機能、加えて再生能力を加味した自然の持続可能な活用能力
3.多様性と独自性、美、そして自然と景観による保養価値

また連邦制を採択するドイツでは、各州が、この連邦の枠組み規定をさらに詳細に規定する各州の自然保護法を備えています(趣旨はほぼ同じですが、運用の枠組みなどが各州で多少異なります)。

つまり、これらの自然保護規定が何を意味しているのかと言えば、自然に進出する形の新たな開発であれ(例:農地を入植地に転換)、現状の自然価値活用(農業、林業など)のより負荷の大きな集中的な利用であれ、優先度合いの順に、以下の原則が守られなければなりません。

①回避の原則:避けることが可能であれば、自然会計、自然、景観、価値利用の能力への干渉、侵害は一切認めない
②最小化の原則:もし干渉、侵害が避けられないのであれば、その侵害、干渉は最低限に抑えなければならない
③補填の原則:さらに最小化された干渉、侵害(自然会計・能力の減少)は、必ず取り返す、あるいは補填しなければならない。つまり、その近隣の地域において、自然会計を増すような対策を取ることによって、失われた自然会計を補填しなければならない
④賠償の原則:補填することのできない自然会計の減少については、賠償しなければならない

言っている意味がお判りでしょうか? 例えば、前回のコラムで説明したFプラン(土地利用計画)で新たな入植地(例えば住宅地)を、これまでの自然部分(例えば農地)に指定しようとしても、もしその自治体の人口が増加する見通しがなく、新しい建築行為をしなければならない理由に乏しいケースでは、①回避の原則が適用されますから、ドイツでは開発行為は一切できません。

人口減少が激しい日本の地方における開発行為は、ドイツの自然保護法の適用下であれば、ほぼすべてNGとなります。

また、もし人口が増加する予測があるなどして、追加の居住用延床面積が必要になったとしても、その自治体に不釣り合いなほど高い容積率、建ぺい率でなければ、できる限りその両者を高く保ち(つまり、人口密度を適度に高め、コンパクトな形で)、入植してゆく土地の面積を最小限に抑制する試みが、②最小化の原則から必須になります(ここまではFプランで指定するのが一般的)。あるいは、失われる土地を最小限化するため、屋上緑化を義務付けるなどの規定を行うことになります。

ですから、日本の地方都市ではよく見かけますが、すでに空き家が目立つような郊外外縁部に、さらに容積率や建ぺい率の低い戸建て住宅エリアが延々と自然に向かって伸びてゆくような姿は、ドイツでは現在は例外です(自然保護規定の緩かった高度成長期後の70年代などには存在しています)。

そして、具体的な建設行為の部分で、Bプランが策定されますが、その策定による影響度合いに応じて、自然会計へのマイナス影響をポイント換算し、そのポイントを周辺部の自然回復による自然会計へのプラスの影響によって、少なくとも相殺される必要があります(③補填の原則)。

例えば、開発行為を行うもの(土地所有者)の費用負担で、開発によって失われる自然価値/自然会計のマイナス影響分(一定のルールでマイナスポイントに換算)を相殺するため、周辺の農家へ一般には30年間の料金を支払って、単なる牧草地(年4回収穫)だったところに、毎年野草の種を撒き、繁栄させるための時間的な猶予を得るため収穫回数を2回に落とさせ、牧草地に果樹や藪を植え、それを管理させることで、十分にマイナスポイントを上回るプラスポイントで清算しないことには、そもそもの建設計画Bプラン自体が策定されない、という厳格なものになります。ちなみに、都市計画法では、入植地外縁部分より外に入植行為を行う場合は、すべてBプランを策定する規定があるため、Bプランなしでの建築行為はできません(既存の入植地内で、連たん地でない場合はBプランなしでも建築行為がなされる場合があります)。

また、価値ある自然景観が入植地になる際、景観の価値/会計は補填することがほぼ不可能であるため、その負の影響分を貨幣換算して、州の自然保護基金(自然保護活動資金として利用される)への支払いとして賠償しなければならないケースも多くあります(④賠償の原則)。

そんなこと、日本の土地所有者、デベロッパー、お施主さん、大家さんの誰が考えているというのでしょうか? ここまで徹底した自然保護対策が行われている背景には、上記の自然保護法の第一条でも触れられていましたが、ドイツ人の思考の中には、「将来世代への責任」、つまり持続可能性というものが、明確に刻み込まれています。

 

南西ドイツの黒い森にたたずむザンクト・メルゲン村。こうした教会を中心としたコンパクトで、密度の高い形状の農村のいでたちは、都市計画法と自然保護法によって、永続的に、将来世代への責任として成立し、保存されています(写真:Wikipedia)

■ ドイツの建設計画Bプラン

それでは、テクニカルな建設計画Bプランの運用について、ざっと説明しましょう。建設誘導計画としての双子の相棒、土地利用計画Fプラン(一般には20カ年計画)によって正当とされた新たな土地利用の指定において、該当する敷地の開発優先度合いや容積率、建ぺい率などがおおよそ規定されています。

人口の増加や社会状況の変化に応じて、その該当する土地の開発行為が必要であると判断されるとき、市議会は、行政の都市計画担当部署に、Bプラン策定を命じます。都市計画担当者が、最初に行うのは、自然会計のバランス確保です。各自治体には、おおよそ今後、プラスの価値をもたらすように指定してゆく農地や森林、公園、河川などがありますから、これらを駆使して、Bプラン策定による影響のマイナス分を相殺するためのポイント獲得に奔走することになります。

その結果、ポイント相殺に目途がたった際には、通常、以下のような手順でBプラン策定を進めてゆくことが一般的です(ここまでの記述でもそうですが、州によっても手法が異なり、対象の開発の規模や土地所有者の状況によって、自治体によって様々な手法を利用しますから、以下は一例とお考え下さい)。

1.都市計画開発における契約書を土地所有者と締結する:

 おおよその開発行為の概要を民間の土地所有者に伝え、その開発によって、現在の土地の公示価格(例えば牧草地であれば坪1万円)を、Bプランが策定されたことによって上昇する土地予想公示価格(例えば建ぺい率30~40%、容積率150%程度で、人口規模10~30万人程度の南ドイツの都市で、アクセスが良い土地の場合、坪45万円)との差額分のうち、6~7割程度(坪30万円)を自治体に支払うことを了承する契約書に、土地所有者は最初にサインしなければなりません

2.開発費用の確保と会計処理:
 上記によって、自治体は、都市計画担当部署でこの開発のために稼働する職員の人件費も、Bプラン策定費用も、公共交通接続のための費用も、道路や上下水道などのインフラも、学校や幼稚園、公民館などが必要な場合はその一定割合の費用も、捻出することが可能となります。開発規模が大きなときは、自治体は、特別会計を設置して、そこで会計処理する場合もあります

3.環境影響評価の実施:

 プランがおおよそ固まれば、その開発行為がどのような影響を周辺部、およびその該当する入植地に及ぼすのかの影響評価が行われます。基本的には、音のシミュレーションなどによる騒音被害と抑制の評価、小気候(マイクロクリマ)と言われる風や日射、温度や湿度などのシミュレーションによる影響と抑制の評価といった新たな入植地に入る「人間のための評価」と、希少生物の保護や自然会計の相殺や補填、追加的な自然保護対策などの「自然のための評価」の二つの分野で構成されます

4.プランの公表と住民参加:

 プランが固まり、環境影響評価が出た時点で、一定期間、市民からの意見を募集し、それらを取りまとめ、市議会に設置された建設委員会や市議会へ、その内容を伝え、協議し、必要であれば、プランの修正作業を行います

5.プランの決議と発効:

 上位計画に齟齬がないかどうか、州の自然保護局などの各監督機関による認可などの処理も並行して行い、それらがすべて揃った段階で、市議会へ提出され、過半数以上の賛同によってプランは決議されます。Bプランには、①図面と②図面の説明書に加え、③理由書(訴訟などにあらかじめ対応できるように図面と図面の説明書に記載されている内容が、なぜそうならなければならないかの理由)、そして④市議会の決議書類の4点セットのことを通常Bプランと呼びます。

 最後は、首長がサインしたら、めでたく発効となり、このBプランは条例と同じように土地利用者に対しての義務を課すものとなりますので、Bプラン記載以外の開発・建設行為は一切禁止されます。また、建築時には各州が確定している建築基準法などは、同時に守らなければならないものですが、Bプランによって、建築基準法を順守する必要のない例外規定を示すこともあります

 

筆者が居住する住宅地エリアのBプラン:(出典:フライブルク市)
https://www.freiburg.de/pb/site/Freiburg/node/208428/208428.html?zm.sid=zm9q2bcuy6v1

以上、今回のコラムでは、具体的に建物が建つまでの前準備、という視点で、ドイツの都市計画法を紹介してみました。いかがですか? 日本と比較するまでもなく、厳しいですよね。次回のコラムでは、さらに、Bプランの中身について、事例などを紹介して、持続可能性との関連を論じてみたいと思います。