【論評】
<ドイツにおける都市計画(その1)>
「持続可能性という視点でのドイツの都市計画制度」
■ドイツの都市計画制度の枠組み
前回のコラムでは、不動産の持続可能性について述べました。不動産を構成する「建築物」についての持続可能性についても後々は議論してゆきたいのですが、まずはその不動産が立地する「土地の用途」について、その枠組みであるドイツの都市計画制度について紹介し、持続可能性を議論してゆきたいと思います。
さて、ドイツの都市計画制度について、ざっと上位計画から順に、その枠組みを見てみましょう。
まず、日本との最大の違いは、ドイツという国境を越えたEUに最上位の計画があることです。EU域内では、高速自動車道路網、鉄道、空港、港湾などの重大交通インフラについて、各国の利害関係を調整した後、合理的で一貫した(形であるはずの)Trans-European Networks(略称:TEN、交通部門の場合はTEN-T)が策定されています。余談ですが、このTEN-Tがあることで、ドイツの高速鉄道ICEやフランスの高速鉄道TGVなどが、古くから国境を越えて複数国にスムーズに乗り入れられるようになっていますし、その他のインフラの部門においても、例えばTEN-Energyでは高圧電線や天然ガスパイプラインなどの国境を越えてのエネルギーインフラについても、各国の利害関係を調整した後、合理的で一貫した(形であるはずの)総合計画が策定されることになります。
図:TEN-T(出典:EU)
同時にEUでは、European Spatial Development Perspective(略称:ESDP)を90年代後半に策定することに成功しており、各国個別の都市計画策定権限に一定度合いの干渉を行うことを可能としています。ただし、これにはEU指令のような法的義務ではありませんので、EU Structural Funds(構造基金、EU予算からの助成措置)におけるEuropean Regional Development Fund (略称:ERDF)などにおいて、とりわけEU内における経済的に弱い地域、国において、以下のESDPが掲げる目標に基づいた都市計画の策定と実行を促進することとなります:
上述したようなEUにおける空間計画があり、その下位にドイツ国家としての都市計画/空間計画である連邦国土計画が存在します。ただし、連邦国家であるドイツは、国としての都市計画上の役割を「枠組みの策定」としており、上述したEUにおける上位計画を以下に記述する各州に受け流すような機能は有するものの、また、各州が策定する州国土計画における州間の調整や枠組みを規定しているものの、日本のように国が直接的に地方自治体に対して上位計画の策定権限をふるうというようなニュアンスとは異なるため、注意が必要です。
日本で一般に想像されるような、日本において国が策定する社会資本整備重点計画のような都市計画策定の権限を遂行しているのは、ドイツ連邦を構成する16の州となります。各州はここまで述べてきたようなインフラ関連を主体に、同時にここまで述べられてこなかった、次回以降で記述しようと考えている自然保護法関連を併せて、州国土計画、そしてその下位計画となる地域計画を策定しています。
- 都市計画の策定主体である地方自治体
以上のような枠組みとなる上位計画がドイツには存在していますが、それらに接触しない範囲で、あるいはそれらの修正が可能な範囲で、都市計画の策定主体そのものは、1960年に策定された建設法典(都市計画法)で保障されているように、地方自治体が建設誘導計画によって主に有しています。
ドイツに存在する11,000を超える地方自治体は、建設誘導計画の策定権限を有するとともに、策定しなければならない義務を負います。日本の場合、人口1万人を下回る町村には都市計画の策定権限がなく、策定されていませんが、ドイツの場合、人口規模が300人であっても、自治体広域連合や郡という括りを活用して、自治体が所有する領土の隅々まで都市計画されているのが特徴です。
※正確には建設誘導計画と併せて、入植地外には、ランドスケープ計画が策定される。
つまり、日本には、その土地の用途が定義されていない領土(雑種地、白地地域、都市計画区域外など)が存在しますが、ドイツの領土にはそのような不定義の土地は存在しません。よくドイツの厳格な都市計画を比喩する言葉として、「計画なくして開発なし」と言われたりしますが、計画のない土地がそもそも存在しないことを都市計画の特徴としているので、これは適切でない表現だと私は感じています。あえて述べるなら、「計画ない土地なし」でしょう(笑)。
さて、その自治体による「建設誘導計画」ですが、すべての行政活動を拘束するという特徴を持つ「土地利用計画、Fプラン」と、市民などにも義務が生ずる「建設計画、Bプラン」の二段階の計画から成り立っています。
Fプランは、ランドスケープ計画(Lプラン)と併せて策定されるのが一般的であり、通常は策定に3~5年間ほどかかり、20~25年に一度の改定が行われるのが基本です。いわゆる、日本で言われるところの都市マスタープランと近いところもあり、基本的には、その言葉が言い表すとおり、自治体の領土における土地の利用、用途について定義します。
図:ドイツ・フライブルク市のFプラン、Lプラン2020(出典:フライブルク市)
https://www.freiburg.de/pb/208148.html
行政は、すべての活動をこのFプランによって制限されるわけですから、個別の建設にかかわる計画であるBプランは、このFプランに準拠します(Bプランも、Fプランも行政が策定の準備を行うため)。もちろん、Bプランを策定する際には、Fプランの修正が行われる必要も出てきますから、定期的に(かなり頻繁に)Fプランは適時修正されます。しかし、このFプランの修正、Bプランの策定・修正については、常に自治体の議会の過半数が求められ、所定の住民参加の手続きが入ることを知っておくことは重要です。
例えば、日本では近年、多大な問題となっている雑種地や白地地域における野立ての太陽光発電による乱開発という事柄は、ドイツではほとんど問題になっていません。その理由は、土地の所有者、および開発事業者が、どのような開発を望もうとも、それを認めるかどうかの判断は、議会に存在していることが挙げられます。つまり、議会が過半数で許可した乱開発は各地に多少はあるものの、一般的には景観保護、自然保護、防災といった地域の土地機能に損害を与えるような開発には議会は賛成しませんから、そのような持続可能でない開発は行われないのです。
さて、次回は、Bプランの策定について詳しく述べるとともに、同時に、自然保護法との関係性に言及してみたいと思います。