風戸001

【提言】

<日本と東南アジアの新築マンション取引慣習と外国人所有規制>
日本の新築マンション販売手法は数少ない閉鎖的な領域であり、インバウンドを含む取引 の多様化に応じて変化が求められる
  ■日本における新築マンションの販売手法

2016 年シンガポールに移住をし、東南アジア不動産の売買、賃貸の広告や取引を学び、 実践してきたが、そこで日本との取引の大きな相違点に気づいた。日本における取引の閉 鎖性と外国人対応の遅れである。

東南アジアにおいては、新築販売のマーケットがエージェンシー(宅地建物取引業者)、エ ージェント(宅地建物取引士)にオープンであることを意味する。つまり、多くのエージェント が新築物件の販売を行い、成約をした際にはリファラルフィー(成約報酬)をコミッション(仲 介手数料)として受け取ることができる。

一方で、日本においては、新築マンションの販売は売主(施主)もしくは売主から委託され た販売会社が行い、基本的に顧客を持っている他の宅地建物取引業者(以下宅建業者) が仲介をすることはできない。販売会社は売主から広告・宣伝・モデルルーム設営・派遣ス タッフの手配等の委託を受ける。さらに売主と一緒になり販売計画を作成することもある。 販売会社は、委託報酬の他に通常成約報酬として売主から取引価格の3−4%のコミッショ ンを受け取る。販売時、モデルルームに来た買主候補の対応は販売会社が行い、セールスをする。

しかし、仮に他の宅建業者が顧客を紹介した場合は、紹介料程度は支払うことはあるが、 3%などの仲介手数料を支払うことはない。(新築一戸建ては異なる)

日本の宅建業者は新築マンションが取り扱えないという、非常に閉鎖的なマーケットであ うと言える。

一方で、中古の不動産流通市場においては専属・専任媒介契約においてはレインズに掲 載義務があり、売主と媒介契約を締結した宅建業者は、買主候補を紹介する宅建業者か らの顧客紹介の拒否や、レインズから情報を削除するといったいわゆる「囲い込み」行為は禁止されている。

上記のことから、日本国内の新築マンション市場の排他的といえる権利を販売会社が得 る構造となっており、他不動産取引と比較しても特殊だ。本件は慣習といっても過言ではな い。大手不動産会社は子会社に流通会社を所有しているため、その流通会社を販売会社に指定することが多い。その場合はグループ内での取引となる。また売主が自社で販売す る場合、セールススタッフが不足する場合は派遣等で補い、モデルルーム派遣業者も存在 する。不動産経済研究所によれば、2017年度の新築分譲供給トップ20で分譲総数の5 6%を占める大手寡占のマーケットである。

■東南アジアにおける新築コンドミニアムの販売

一方で東南アジアにおける、販売フローはフレキシブルであり、囲い込みは行われていない。以下が一般的な流れである。

(1)売主のセールスチームを組成(2)モデルルーム、販促資料を作成(3)Sole Agency を選定(しない場合もある)(4)外部エージェントのトレーニング(5)海外企業への情報配信と 各国のマーケティングパートナー、エージェンシーの選定(6)販売開始

Sole Agency というものが販売会社に該当するとみてよい。ローカルの会社もあれば、 CBRE や Knight Frank といった国際的な企業が選定されることもある。しかしながら、Sole Agency 以外でも販売をすることができる。それが外部エージェントである。

外部エージェントが売主かつ Sole Agency 以外の宅建業者に該当し、それぞれのマーケ ティング費用にて物件を広告し顧客をモデルルームに連れてくる。物件の詳細は売主のセ ールスチームもしくは Sole Agency からトレーニングを受けているので、説明も可能である。通常のパンフレットや販促資料は無料で売主もしくは Sole Agency から取得することができ る。

コミッション体系は以下のようになる。売主のセールスチームが買主を発見して直接契約した場合は売主からセールスチーム(エージェント)に対して5−10%程度が支払われる。 ちなみに、ここでいうセールスチームのエージェントもフルコミッションに近いエージェントが 多い。また、外部エージェントの顧客にて契約した場合は売主からセールスチーム(エージ ェント)外部エージェントに支払うパーセンテージを除いて支払われる、売主から外部エージェント3−5%程度である。

■外国人に対する販売(規制と慣習)

外国人に対する販売に関しては、まずはそれぞれの国の法規制を確認しなければならな い。日本においては外国人の土地を含む不動産の所有に関しては制限が設けられていな いため、欲しい不動産を制限なく購入することが理論上可能である。東南アジアの主要国 ではすべての国において外国人の不動産所有に関する制限を設けている。

*東南アジア4カ国の外国人不動産所有制限(Property Access 株式会社調べ)

制限を設けている理由は、先進国により国土(領土)を取得されないということにほかならないが、一方で上記の制限の中で最大限外国人に販売をしているというのが実態である。 英語・中国語対応のエージェントはセールスチーム内に配置していることはもちろんのこと、その他の言語においては各国ローカルのマーケティング会社やエージェンシーと連携して 販売をする。外国人対応をするチームをセールスチーム内でインターナショナルセールスチームと呼ばれ、そのチームが販売子会社として独立している場合もある。国内・国外の販

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売に関しては共同取引が行われるのが一般的である。

■提言

日本における新築マンション販売は隠れた排他的権利であり、宅建業者への情報開放と共同取引(共同仲介)がなされていないことは世界スタンダードからすると理解しがたい。

同時に、東京の不動産は経済規模を比較しても非常に安価というのが海外からの評価であり、外国人の所有については制度面、販売方法含め検討を迫られている。

*2017 年世界の高級コンドミニアム価格ランキング Zuu Online 調べ

外国人所有については、売主が内部の自主規制を設けていたりするのみで、一度セカンダリーマーケットに入ったらその規制はなくなる。今までは言語の壁に守られてきた日本。不動産取引の国際化の中で、欧米、アジアの各国の制度改革も参考としながら、不動産所有制度や外国人所有者への税制の検討、そして世界の流れに対応した新築マンション取引慣習はオープンに変えていかなければいけない。

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